日産婦医会報(平成13年10月)

妊婦健診の現状から病診(診診)連携を考える分娩を扱う側からの提言(2)

日母医療対策委員会前委員長 家坂 利清


 前号に引き続き、「妊健に関するアンケート調査」から「分娩を扱う側」の意見(389)を中心に病診連携のあり方を考える。

4.経過中に得られた情報を正確に

 紹介状の内容に関連した不満が111施設から寄せられた。従来、扱う側が情報として何を期待しているかについて、具体的な指針がなかった。そこで今回の調査では、前号末の表に示したように、「分娩を扱う側」における諸検査の実施率とともに「送る側」へ期待する検査(期待率)も調べた。期待率が実施率より低いという事実は、扱う側が送る側に同じ医療水準を要求していないことを示唆している。この調査により、「送る側にどのような検査が期待されているか」が、今回初めて明らかになった。
 扱う側の希望が明示された今後は、様々な検査項目についてその意向に添うことが可能だろう。以下、調査結果に基づいて要点を述べる。

・妊娠中の血液検査:
 
公費負担分の血算、ワ氏、HBs 抗原検査などを除く血液検査の優先順位については、扱う側の期待率は、HCV、HIV、HTLV、風疹の順だった。費用の面で送る側が多くを実施しにくいときには、この順に項目を選ぶのが妥当だろう。送る側でよく検査されているトキソプラズマに関しては、扱う側の実施率は低く、あまり重視されていなかった。

・妊娠中の超音波検査:
 
扱う側で、胎盤の位置、BPD 計測、推定胎児体重測定の実施率が高かったが、推定胎児体重は送る側には期待されていなかった。そこで送る側としては、妊娠初期に「無脳児ではない」ことを確認した後、BPD を適宜計測し、胎盤の位置を念頭に置きながら妊健を行う。前述したように、送る側でぜひともCRL から分娩予定日を決定しておく。

・妊娠中のその他の検査:
 
血液と超音波以外の検査については、扱う側で細胞診がよく行われていた。ただ細胞診に関しては、扱う側と送る側の対比以上に病院と診療所間の差が顕著だった。施設間の過度の格差は、診療の標準化という観点から好ましくない。また、子宮がん検診を妊娠中に勧めることは、女性の生涯を診るかかりつけ医としての原点にもなる。診療所医師は、妊婦の細胞診を積極的に実施していただきたい。

・既往歴の重要性:
 
情報として大切なのは検査報告だけではない。「既往歴を正確に伝えてほしい」との要望が寄せられた。特に前回帝切の症例では、詳細な情報がないと帝切するべきか否か、扱う側が苦慮することになる。いずれにせよ、検査結果や既往歴に関して「経過中に得られた情報を正確に伝える」ことは、送る側の重要な責務と言える。

5.その他の指摘

 数は多くなかったが、重要な指摘が2つあった。

1)双胎の膜性診断
 近年、一絨毛膜性双胎児の予後が二絨毛膜性双胎児に比べて悪いことが明らかになった。両者を確実に鑑別しておくことは妊娠の予後を予測する意味で極めて大切だ。この技法は「CRL からの予定日」と同様に、妊娠初期でしか行えない点に扱う側の悩みがある。双胎はそれだけで十分にハイリスクだ。「ハイリスク妊娠は早めに紹介」の提言に添って、扱う側が膜性診断できる時期に紹介できれば、それに越したことはあるまい。

2)妊婦貧血
 貧血は妊娠末期では治療が間に合わないことが多い。貧血状態のまま分娩を迎えることは、扱う側にとってはストレスになる。送る側が妊娠後期まで妊健を行うときは貧血を軽視せず、なるべく早期に発見、治療しておく。

おわりに

 アンケート調査では、「分娩を送る側」と「分娩を扱う側」、双方の視点で妊健に関する情報を解析した。それに加えて本稿では、「分娩を扱う側」の忌憚のない意見に基づいて結果を考察した。
 「分娩を扱う側」からの要望としては、「ハイリスクは早めに紹介」、「情報を正確に伝達」、「ムンテラの問題点」等、ごく常識的なものが多かった。
 結局、病診連携の原点とは、決して高度な知識や技術を駆使することではなく、基本に則った医療を行うことだった。「分娩を送る側」はこの事実を銘記すべきだろう。
 また、今回の情報や意見を病診連携の実践に生かす必要がある。そのためには、妊婦の紹介方法や時期、あるいは検査の内容等を巡って、議論ができる場を地域に設けることを提唱したい