日産婦医会報(平成13年3月)

福岡県の健康教育事業(性と心の健康相談)
 学校保健における産婦人科の役割

日母医療対策委員 片瀬 高


はじめに

 学級崩壊や少年犯罪の多発・凶悪化などの社会問題を背景に、学校保健とそれを支えるべく学校医の役割の重要性が唱えられ、またそれに伴う専門医の必要性も迫られている。そのような中、福岡県の学校保健協力事業は、県医師会と日本母性保護産婦人科医会福岡県支部と県精神病院協会が支援する形で発足し、全国に先駆けて、産婦人科・精神科の専門医による健康教育(性と心の健康相談)が、1985年県立高校12校において試行的に実施された。その後、1989年に22校に増加し、1990年には県立高校110校全校で実施されることになった(現在111校)。

事業の展開

 各学校では生徒の実態に応じてグループ相談、個別相談や講演会を行うばかりでなく、PTAを対象とした講演会、教職員を対象とした研修会など多様に事業を運営している。県教育委員会が、各高校から1年間の健康教育推進事業に関する様々な意見を出してもらってアンケート集計処理をした上で、次年度の初めに全高校へ報告書を配布している。このシステムによって他の高校では何をやっているかといった情報提供を受けるばかりでなく、学校からの反省事項をフィードバックすることで改善すべき点が明らかになり、事業の円滑化に役立っているようである。また、僅か5年で全県立高校での完全実施に至ったことは、このシステムがあったからこそできたものと思われる。

1999年(平成11年度)の実施状況

 産婦人科健康教育実施状況は、実施学校数111校中111校(100%)、実施回数は延べ236回(講演86回、相談150回)、相談人数は延べ829人(生徒698人、教職員124人、保護者7人)であった。講演内容のテーマの上位3項目は、「性行為感染症(含エイズ教育)」、「性行為、妊娠」「避妊及び人工妊娠中絶」に関するもので、相談内容のテーマ上位3項目は「月経」「性感染症」、「不正出血、帯下、基礎体温の測定等の指導」に関するものであった。

事業の成果と今後の課題

 もともと、学校側、特に教職員側から、性の問題や婦人科疾患を疑われる生徒たちのことについて、相談できるところがほしいとの声が上がっていたし、生徒も性の悩みを抱えていても、やはり産婦人科は敷居の高い診療科なので、どうしたものかと問題解決に苦慮していたようである。この事業が始まってからは、自分の性の悩みや病気の悩みを専門医に直接相談し、正しい知識が得られること、また疾患の場合も必要に応じて病院を紹介してもらえるようになったことから、相談者の安心につながっているようである。
 また、教職員や保護者も、専門医から指導してもらうことによって、生徒に適切に対処できるようになり、精神的な安定を得られるようになったことは、この事業の成果と評価されているようである。
 問題点と要望としては、「講師である専門医と日程調整がつきにくい」「相談場所の確保が難しい」「広報活動を一工夫する必要がある」などが挙げられている。

産婦人科の立場から

 近年、初交年齢の低年齢化や人工妊娠中絶術の低年齢化が顕著になっている。また、若年女性の性感染症に対する危機感が低いことにより、淋菌やクラミジア感染症の著しい増加をもたらしているばかりでなく、将来エイズの拡散も心配されている。このように性に関する事柄が社会問題化している現在こそ、性教育の担い手としての役割を産婦人科に期待されていると言っても過言ではないであろう。若者に「性は生命につながるものであること」を十分理解してもらい、性、生命それぞれの大切さをいかに教えていくかが、産婦人科が性教育に取り組むにあたり最大の要点と言えるであろう。また、性教育の本来の姿を模索する手掛かりとなるであろう。
 私個人は、産婦人科で行うのに最適で、分かりやすい方向性を持った性教育として、「赤ちゃんを抱く」ふれあい体験学習を提案している(“医療と医業・特集号2001年1月号p6〜7”「産婦人科のできる少子化対策」参照)。

結び

 現在、学校医は一般・耳鼻科・眼科の3校医制となっているが、これに産婦人科と精神科を加えるべきであると言う意見が今ほど説得力をもって語られる時はないように思われる。福岡県の学校保健活動の成果を見ても分かるように、地域の学校や医師会などとの緊密な連携こそがこの事業の成否を決めるといっても過言ではないと思う。