日産婦医会報(平成13年4月)太田市における医師会と基幹病院の取り決めについて
太田市医師会参与 松本 茂
はじめに
平成12年度より、健やか親子21(官民一体となり、安心して子供を産み、健やかに育てられる社会の実現を図る国民運動;日母医報2月号羅針盤参照)が開始された。その1つに安全で快適な出産の実現が掲げられ、産科医療における連携強化、周産期センターの設置、救急システムの整備、妊産婦死亡率半減等が目標とされている。この運動で厚生省(当時)は、各都道府県を通じいくつかの自治体を指定し、“それぞれの立場で何ができるか”という試みを行った。本稿では、県単位周産期ネットワーク機能を十分に活用した、群馬県太田・館林市医療圏での試行を紹介する。
医師会と基幹病院の取り決め
1)平成10年4月より、胎盤早期剥離、前置胎盤大出血、子 の産科救命疾患は無条件に入院を引き受ける。
2)平成12年12月より、当医師会医療機関から紹介した患者は、紹介した時点で通院患者と同様の待遇をする。この取り決めは、平成10年に“かかりつけ医推進試行的事業団体”に指定された太田市医師会が中心となり、医療圏に関わる行政、病院、診療所、助産婦会の協力のもとに創設された。関係機関の役割と事業の展開
1)行政の働きかけ(救急医療への姿勢)
地方分権が叫ばれる昨今、地方都市は、教育、文化とともに医療を、特にそのアメニティーとして、最重要課題と位置付けている。当市には20年来、救急患者は市内で可及的に対応するとの伝統がある。この伝統に則り、行政は地域住民へのサービスとして、周産期医療も市内での対処を医師会に期待し、医療圏内病床を積極的にNICUへ割り当てるという姿勢を示した。2)医師会におけるかかりつけ医推進試行的事業
当医師会は、前述のごとく平成10年から、厚生省の「かかりつけ医推進試行的事業」団体に指定された。この事業は、平成2年から開始された地域医療連携推進モデル事業が、平成10年に本制度へと発展したものである(基幹病院にとっては、“地域医療支援事業”となった)。これは単なる病診連携の枠を越えて、病院に積極的に地域医療支援事業としての活動を求めるものである。3)基幹病院の協力と実績
生活圏内の病院への搬送(第3次医療計画の目標とする医療圏内解決)を実現するため、太田市医師会は、NICUの増床を総合太田病院に要請した。NICUは不採算部門であるにも関わらずご快諾をいただき、平成10年度の地域医療計画を踏まえ、群馬県病院機能部会で念願の8床の増床が認められた。さらに今年度は周産期医療として10床の増床も予定されている。基幹病院は企業立の病院であるが、利益を地域に還元する姿勢で地域医療を支援している。
過去3カ年で胎盤早期剥離、前置胎盤大出血、子 の搬送依頼の母体搬送症例数は、それぞれ8例、10例、1例の計19例で、入院不可能例は1例のみであった。また、これらの症例で、2時間以内に手術を開始した症例は10例、輸血例7例、新生児NICU収容例は15例、挿管例9例であった。搬送時点では、常にNICUは満床、うち10例では産科も満床であったが、病院の協力によりすべて院内で収容できた。19症例中、当医師会関係は12例を占めたが、近県からの搬送も5例あった。病院には負担のかかる制度ではあるが、NICUを有する地域基幹病院としての役目を果たそうとする自負である。4)群馬県新生児緊急搬送システムと新生児搬送
総合太田病院のNICUの入院数は、平成7年度が24例、8年度29、9年度36、10年度42、11年度67、12年度は63と飛躍的に増加した。群馬県には、第3次医療機関として、小児医療センター、群馬大学周産期センターがあり、周産期ネットワークは有機的に機能している。総合太田病院のNICUも、平成10年に発足した群馬県新生児緊急搬送システムにバックアップされている。まとめ
地域医療支援・連携の現場は郡市医師会を中心とする地区の医療圏である。郡市医師会は病院と診療所の調整に最も相応しい機関であろう。日母会員は日母内だけの活動に留まらず、郡市医師会にも参加し、このような制度を築き上げる際、積極的に仲介役を果たすことが望まれる。
当市の周産期医療は、NICUの絶対的不足故、従来病診連携の対象から外される傾向があったが、今回の制度の実現により、他科同様生活圏内の病院への搬送ができるようになった。県行政と県医師会、日産婦、日母の活動の賜物である。