日産婦医会報(平成13年6月)加古川市における出産前小児保健事業について
日母兵庫県支部 筑後 進
はじめに
出産前小児保健指導(prenatal visit)は、産科医の紹介
を受けた小児科医が、分娩や出産後の育児に不安を持つ出
産前の妊婦や家族に対し、育児指導、相談を行う制度であ
る。同時に、妊婦が出産後のかかりつけ小児科医をあらか
じめ知ることができるという利点も併せ持つ。
わが国では、平成4年度より厚生省(当時)がモデル事
業を始め、これに兵庫県加古川市が参加した。当初、足並
みが揃わず混乱したが、平成7年以降加古川市の保健事業
としての形態が整い、現在小児科医、行政と共同でこの事
業が進められている。
そして平成13年度からは健やか親子21の一環として、
49カ所(うち23カ所は日医が独自に計画)に拡大してモデ
ル事業が展開されることになった。本稿では今後の事業の
円滑な展開に役立つよう、当市の実情と問題点を述べる。
実施方法と受診の実態
対象は、当市在住の初産婦で市内の産科開業医で分娩を
予定している者約600人である(妊婦総数は2,700人、初産婦
はその半数の1,300人で、この数年間ほぼ一定)。方法は妊
娠中期に市の保健係が発送した「育児相談受診票」を、ま
ず妊婦本人が産婦人科に持参して相談の後、本人の希望す
る小児科医宛の紹介状を受ける形式である。
しかし、実際に産科に相談する者は交付数の20%、小児
科を受診はさらにその半数の10%に過ぎず、モデル事業中
では最も良い成績を上げているとは言え、有効に機能して
いるとは言い難いのが実情である。
受診率向上のための対策
1)受診票交付方法当初、受診票は妊娠初期の母子手帳
交付時に手渡していたが、出産はまだ先のことで、妊婦健
診時に受診票を持参する者は少なく、そのうちに忘れてし
まうケースも見られた。現在は妊娠中期に市保健係から直
接発送しているが、それでも受け取った妊婦はその内容や
利用法が分からず、放置している場合が多いようである。
妊娠中期に保健所で再度受診票を各人に十分説明の上、直
接手渡して受診を勧めるのも良い方法だが、仕事などで来
られない妊婦も多く、却って受診者が減る恐れもある。産
科医で受診票を手渡すことも一案だが、行政側は交付数や
受診率の把握が困難になるため、難色を示している。結局、
妊娠中期の健診時にこの事業を再度紹介し、受診を勧める
方法が受診率向上に有効と考える。
2)アンケート調査の実施
平成9年度の対象者482人に、指導を受けた感想や受けな
かった理由などの調査を行った。集計は小児科医の指導を
受けた群(A群)、産科で紹介のみ受け小児科を受診しな
かった群(B群)、産科での紹介も受けなかった群(C群)
に分けて行った。
A群知りたいことを教えてもらったり、特になかった
がいろいろ教えてもらったという回答が全体の約4分の3
を占めた。また、実際に育児の場で役立っているかという
設問では、大部分が役立った、児に対する不安が軽減した、
小児科医に継続的に受診、相談していると答えている。
B群予約が取れなかった、まだ出産していないので小
児科に行きにくかった、行っても何を聞いてよいのか迷っ
ているうちに終わってしまったなどの理由がみられた。し
かし受診しなかった人でも、大半は育児に多少とも不安を
持ち指導を受けたいとの希望があり、この点に配慮する必
要があると思われる。また、指導にはかなりの時間が必要
で人数も制限され、一般診療とは別枠で予約制としている
ことや、夫婦同伴での指導を勧める小児科医も多いことが
受診の制約になっているようである。
C群この群は、受ける必要性がないと答えたグループ
と、希望していたができなかったグループとに分けられる。
前者では他に相談できる人がいた、聞きたいことがなかっ
たが主な理由であった。後者では、紹介時期が分からなかっ
た、忘れていたが挙げられる。
実際の育児で予期せぬことが起こり、小児科医の紹介を
希望する意見が多くみられた。ちなみに、今回のモデル事
業の拡大では、出産後の育児指導も含めるようになった。
おわりに
当初、妊婦が出産後の育児にどれだけ関心を持っている
のかが懸念された。しかし今回の調査では、初産婦でも漠
然とした育児不安を持ち、機会があれば小児科医の指導を
希望していることが窺われた。この事業は実施からまだ日
が浅く、妊婦自身の認識も低く一般にはほとんど知られて
いない。今後、様々な方法を用いて事業内容を説明し理解
を得ること、紹介・受け入れの医療側の改善が必要である。