日産婦医会報(平成13年9月)

妊婦健診の現状から病診(診診)連携を考える分娩を扱う側からの提言(1)

日母医療対策委員会前委員長 家坂 利清


はじめに

 病診連携の実践は現代医療の最重要課題と言える。日母医療対策委員会は、本邦の妊婦健診(妊健)の実態を明らかにし、妊健の視点から産科病診連携のあり方を考察する目的で、平成12年に「妊婦健診に関するアンケート調査」を行った。
 対象は全国の定点モニター(1,017施設)で800施設から有効回答を得た(回収率79%)。本集計では妊健が主題なので、うち778施設が母集団となった。さらに778施設は、「分娩を送る側:119施設」と「分娩を扱う側:659施設」に大別された。ここで、「分娩を扱う側」には診療所、一般病院、国公立病院が混在するが、「分娩を送る側」とは診療所と解釈してよい。結果の要旨は、既に平成13年1月刊行の「医療と医業特集号」に掲載されているので参照されたい。
 調査の中で、「分娩を扱う側」から389の、また「分娩を送る側」から18の意見が寄せられた。特に「扱う側」の意見には、苦汁に満ちた声や積極的な提言まで含まれており大層参考になった。本稿では389の意見のうち、多数を占めた、あるいは少数だったが重要と考えられた内容を要約して紹介する。なお、誌面の都合で掲載順が必ずしも頻度順にはなっていない。

1.ハイリスクは早めに紹介

 妊婦を転院させる時期は、妊健を巡って最も論議が多いところと言える。これを裏付けるように、紹介の時期や仕方に言及した指摘が115と最多だった。
 扱う側が希望する転院の時期を、「〜15週」、「16〜27週」、「28週〜」に分けると、集計上は「28週以後でよい」が最頻値(48%)だった。だが「全ての妊婦をできる限り早めに紹介して欲しい」との声も複数寄せられた。扱う側としては「正常な妊娠でも35週までに紹介して欲しい」がほぼ共通の要望であり、特に「ハイリスク例は早めに紹介して欲しい」との希望が多かった。当然の要求だろう。
 しかしながら、送る立場として「ハイリスク例を早めに紹介する」ことは必ずしも簡単ではない。前回帝切や骨盤位ならいざ知らず、PROMや急速に悪化した妊娠中毒症、切迫早産等、予期しにくい合併症も多いからだ。この点に、即ち予測の困難性に、送る側のジレンマがある。
 急変する状況に備えて、一部の医療機関は「節目健診方式」を提唱していた。この方法では、妊婦は扱う側で分娩予約を済ませた後は送る側で妊健を受けるが、何回か節目に扱う側も受診する。この方式ならば医療側は緊急時に対応しやすいし、患者の不安も軽減されよう。本来オープンシステム、あるいはそれに準じるものだが長所は多く、緊急時対策として、施設間で検討する価値はありそうだ。

2.分娩予定日はCRLから算出

 59施設が「分娩予定日の算出を正確に」と送る側に要望していた。より具体的に、「CRLからの予定日を」と記載した例も多かった。
 国公立病院では、ほぼ100%「CRLからの予定日」を用いていた。妊娠初期しか計測できず、正確性の高い「CRLからの予定日」がいかに重視されているかよく分かる。
 他方で、送る側の「CRLからの予定日」実施率は75%で、この落差が扱う側の不満の一因になっている。送る側はこの事実を銘記し、可能な限り「CRLからの予定日」を求めた方がよい。もしCRL計測が不可能な場合は、予定日算出の根拠(基礎体温、最終月経など)を紹介状に明示するべきだ。

3.ムンテラの問題点

 前医のムンテラを巡って17施設から不満が寄せられた。問題点を大別すると2群になった。
 ・身勝手なムンテラ:例えば「帝切した方がよい」等、妊娠や分娩の管理法を紹介先に押し付けてくる。
 ・不十分なムンテラ:PROMや妊娠中毒症のようなハイリスク例でも、十分なムンテラがないまま送ってくる。
 送り方にも当然節度が求められる。必要があってムンテラした場合は内容を具体的に紹介状に記載しておく。

 参考までに、本稿(次号分も含む)で言及する「扱う側」におけるルーチン検査項目の現状実施率と「送る側」への期待率、および「送る側」の実施率を、調査結果報告書から引用し以下に示す。

(%)

CRL
胎盤*
BPD
HCV
HTLV
風疹
HIV
細胞診
扱う・現状
95
98
97
89
79
78
73
64
扱う・期待
87
59
54
79
60
51
65
44
送る・現状
75
80
77
57
37
64
45
40
*胎盤位置

(以下次号に続く)