日産婦医会報(平成14年1月)

10年後の産婦人科医療の夢

香川医大附属病院医療情報部教授・情報処理検討委員会委員長 原 量宏


 10年後の産婦人科医療ITに関する私なりの夢を書いてみることにいたします。

20世紀のあゆみ

 森山前会長により情報処理検討委員会の前身であるコンピュータ等検討委員会が発足してから、すでに15年が経過しました。委員会発足当時に予測し得たことは現在ほぼすべて実現していることを省みますと、現時点で私が考える夢は、10年後には必ず実現していることと思われます。
 産婦人科医療に関わるME機器の開発を振り返ってみますと、大きく分娩監視装置と超音波診断装置の2つに分類できます。分娩監視装置に関しては、ドップラ信号を用いた実時間自己相関心拍数計の実現により、妊娠中から分娩まで常時胎児心拍モニタリングが可能となり、それに伴い子宮収縮の内測法や児頭誘導法はほとんど使われなくなりました。超音波診断装置も、コンパウンドスキャンから、電子スキャン、カラードップラ、3Dへ発展しました。両者とも超音波信号をコンピュータで処理することにより実現しており、まさにこの30年間の産婦人科ME機器の発達は超音波とコンピュータ抜きには語れません。

今後10年間の方向性

 これまでは個々の機器単体の性能を最大限に発揮することを目標としてきました。次の10年は、あらゆる医療機器相互がネットワークで接続されることにより、個々の医療機関の機能向上はもちろん、すべての病院、診療所、家庭が相互にネットワーク化され、日本全体が1つの総合病院として機能するようになると予想されます。
 その第一歩として、これまで情報処理検討委員会で推進中の周産期管理用電子カルテのネットワーク構想を、全国の診療所と周産期センターに普及させたいと考えています。それにより診療所で得られるあらゆる情報が、非常にスムーズに2次、3次施設に伝わるようになります。現在進められている、厚生労働省による周産期医療のシステム化プロジェクトが全国で実施に移され、しかも効率よく機能するためにもネットワーク化は不可欠です。
 今後、妊婦健診は診療所で、分娩は周産期センター等で集中的に取り扱われるようになると思われますが、本システムは、妊婦健診と分娩の分業体制を効率よく行う上でも大いに役立つでしょう。
 すでに現時点でもパケット通信を用いたモバイルのシステム(i―Mode と同様のDoPa 技術)により、妊婦および医師側が病院、診療所以外のどこからでも、胎児モニタリングが可能になっています。
 在宅管理システムでは胎児心拍数と子宮収縮、胎動以外にも、酸素飽和度、新生児の呼吸の情報などが日常的に監視できるようになり、周産期の分野だけではなく、すべての診療科に普及し、胎児・新生児から高齢者まで、すべての患者が対象になるでしょう。
 検査会社や院外処方薬局とも連携し、外注の検査結果および処方箋はすべてネットワークで送受信されます。電子媒体によるレセプト提出と平行し、支払い基金ともネットワーク化により、個々の医療機関の経営効率向上に役立つとともに、物流との連携、データの2次利用により、地域全体の医療の向上に大きく貢献すると思われます。
 このように多数の電子カルテや医療機器をネットワーク化するためには、セキュリティー確保は重要な課題です。現在、日本発のインターネットの新しい技術としてIPv 6が注目されていますが、これによりすべての医療機関、医療機器はもちろん、デジカメや時計、家電製品、自動車など、あらゆる機器類がモバイルで安全にネットワーク接続されます。また、病院内における点滴の速度、在宅における薬の投与量の微調整なども日常的になります。

さらなる夢を求めて

 以上が10年後の夢ですが、私が考えるとどうしても月並みになってしまいます。そこで、事務局の方が語った素晴らしい夢をご紹介します。
 小型化された3Dの装置を家庭のテレビやパソコンに簡単に接続できて、お腹の中と赤ちゃんの顔を見ながら、お話ができたらさぞ楽しいでしょう! 3Dの胎児映像を見ながら、いろいろな歌をうたって、反応をみたりするのも面白いかもしれません。そして、1〜2週間に1回、かかりつけの医師にデータを転送して、「元気ですよ!」と言ってもらえれば、妊婦さんが安心して毎日を送れるに違いありません。モバイルの環境であれば、たとえかかりつけ医が学会参加中でもデータを受信できます。
 こんなことが現実となる日はそう遠くないと思います。ところで皆様はどのような夢をお持ちでしょうか。