日産婦医会報(平成14年11月)

共同経営による産婦人科診療
(分娩を取り扱う場合)共同経営者の適性と役割分担についての考察

群馬県セントラルレディースクリニック
日本産婦人科医会医療対策委員 角田 隆


【はじめに】

 設備や食事などにアメニティーを求めた時期は去り、今日では妊娠中の指導や陣痛緩和法、分娩方法など、患者自身が医療内容を選択できることにアメニティーの対象が移りつつある。画一的な周産期管理でなく、患者の希望に応える医療を行うことで満足度が高まると考えられる。分娩を取り扱う医療機関では、安全性を確保しつつ患者自身の選択肢を広げるスタンスで診療に携わることが大切である。
 これらのニーズに応えるべく、共同経営による役割分担を確立し、円滑に対応することが今後の産婦人科診療のひとつの方向と考え、平成6年9月、17床の有床診療所を開院した。私が43歳、パートナーは38歳であった。

【自己の分析と共同経営のパートナーの評価】

 共同経営の破綻はパートナーとの信頼関係の喪失に負うところが大きい。したがって、共同経営に必要と思われる以下の項目につき自己およびパートナーを互いに評価し、適性を検討した。

  1. 協調性と自己主張の強さ
  2. 経済観念
  3. 診療時の積極性と決断力
  4. 経営に対する決断力と斬新性
  5. 学会、医師会活動
  6. 健康状態
  7. リーダーシップ
  8. 医師としての能力
  9. 患者への接し方

を4段階評価で採点した。これらの評価は開院後の経営に大きく影響するため、パートナーを決定する前に厳しく採点することが重要である。互いの評価の一致する割合が高ければ、この評価は信頼性が高いと考えられる。
 最も重要な項目は“協調性”である(必要条件)。リーダーシップがあっても協調性に欠ければ、時間とともに良好な関係は破綻する可能性が高い。われわれのケースは協調性に優れているとの評価を得たが、これが乏しい場合は適性がないと判断せざるをえない。他の項目では、私は積極性、決断力に優れるが、せっかちで経済観念に欠けるとの結果を得た。パートナーは経済観念に優れ、慎重な性格であるが、決断力は劣るとの結果であった。体力的にはほぼ同等、医師としての能力、斬新性など、他の項目の評価は“普通”で今後の努力により改善可能と判断した。

【理想的なパートナーとは】

 パートナーの選定は、互いの性格が類似していることより、相違点は多くても、それらを許容できる寛容な性格が必要で、互いの欠点を補えることが重要である。

【共同経営の理念】

 共同経営を志したとき、役割分担(理事長、院長)、出資の比率、収益の分配など、事前に検討すべきことは多々ある。これらをクリアしないと、時間の経過とともに不信感が増幅し、破綻の一途をたどることとなる。
 われわれは、開院時より互いに対等の立場でクリニックを設立し、事前に行った互いの適性評価を基に、一方に偏らないよう責任分担を決定した。収益を折半することで、互いの経営に対する自覚を促し、仮に行き詰まったときでも経営改善に真剣に取り組むことが可能と考えた。目標とした仕事量を超えた場合には、無理をせず量を減らして、診療の質の低下を防ぐことも必要と考えた。多忙を理由に拙速に医師を増員すると、当初の理念が崩れることがあり、やむをえない場合でも非常勤にとどめた方が無難と思われる。

【施設について】

 自己資金が少ないことを考慮し、収益効率は劣るが施設は賃貸とした。仮に“医療法人”を解散する場合、資産の分配が容易と判断したからである。不動産は換金性の不安定なことが多く、換金せず利益を分配した場合、争いの原因となりやすい。
 しかし、運転資金を考えると、開院後1年間は、賃貸料がかなりの負担となった。賃貸でなければ最初の2〜3年間は利息のみの返済ですむ資金計画が立てられ、開院時の運転資金に余裕ができると考えられる。十分検討し、負担の少ない資金計画を立てることが大切である。

【おわりに】

 大雑把な性格の私が2年の準備期間を経て開院にこぎつけたのは、その陰にパートナーの存在があったに他ならない。現在、無痛分娩を積極的に取り入れたことで差別化を図り、年間分娩数は550件程度となった。医療を取り巻く環境が厳しくなる中、現在の緊張感やパートナーとの信頼関係を堅持できるか(しなければならないが)、健康を損ねたときの対応など、将来の不安がないわけではない。
 しかし、互いの存在なく、クリニック設立の理念を継続することは不可能である。互いの立場を尊重する気持ちを忘れなければ、如何なる状況でも修復は可能と考えられる。患者の満足度向上を目指し、今後も前進できることを祈っている。