日産婦医会報(平成14年7月)

高齢婦人の医療と介護

日本産婦人科医会予防医学・介護担当理事 加藤 初夫


■ はじめに

 高齢化社会を迎え、とりわけ女性の高齢化が著しい中、産婦人科医の高齢婦人に果たす役割がますます増大している。成熟婦人のほぼ半数が高齢者であり、これらの婦人の抱える疾患に、産婦人科医は今まで以上に取り組む必要がある。

 日産婦医会医療対策委員会アンケ−ト調査によると、種々の理由から分娩取り扱いをやめた産婦人科施設が増加していることが明らかになったが、同調査の中で、産婦人科外来診療主体では経営的には苦しく、先々楽観できないといった訴えが見られた。このような状況の中で、高齢婦人の診療に積極的に目を向けることにより、医業経営の面でもより幅が出てくると考える。

■ 高齢婦人への取り組み

 従来、産婦人科医は他科と比べ、高齢者の診療を軽んじる傾向があり、また高齢婦人側も、少々の悩みは放っておくということが多いようである。母集団が多いにもかかわらず、高齢者の診療実績は、産婦人科診療の中でもかなり低いのが実情である。

 老人医療の改革がなされようとしている中、産婦人科医も高齢者に対し、啓発も含めてより重点を置くべき時にきている。帯下、出血、尿失禁、性器下垂、腰痛(骨粗鬆症)等、高齢婦人の抱える悩みを積極的に掘り起こし、取り上げていくべきである。老人会等に出向いて婦人科診療の必要性を説くこと等もあってよいと思う。がん検診にしても、高齢者を対象にしていない市町村が多いが、医療側主導で高齢者のがん検診を行っていくべきである。

 同時にこのような婦人科特有の疾患のみにこだわらず、生活習慣病(高血圧、高脂血症、糖尿病等)、腰痛、肩こり等の疼痛、あるいは脳卒中後遺症、高齢者特有の精神疾患等の療養管理にも、女性のトータルヘルスケアを見守るかかりつけ医として、必要であれば専門医との連携を保ちながら、関わっていく姿勢があってよいと考える。診療報酬でもこれらの分野に重点が置かれていることは既定の事実である(産婦人科医は指導管理料、在宅医療料等をもっと熟知し、算定してもよいと思う)。

■ 介護保険への取り組み

 介護保険が施行され2年が経過したが、制度そのものはほぼ順調に経過している。2001年暮れに日産婦医会が介護保険制度への本会会員の関与状況に関するアンケートを行った。それによると介護保険になんらかの形で関わっている産婦人科医は、各都道府県で数名ずつおり、広範な介護事業の運営をはじめ介護認定審査会への参加、主治医意見書の作成、あるいは居宅療養管理指導とその参画は多岐に亘っている(調査結果は改めて報告される)。高齢者の医療と介護は不可分のものであり、今後さらに多くの産婦人科医が介護保険に関わっていくことが望まれる。

 介護保険への関わりの第一歩は介護支援専門員資格の取得である。アンケートによると全国で38名の産婦人科医がこの資格を取得している。介護保険事業はこの資格がないと進まないことから、従業員等に取得させてもよいが、介護保険を理解するためにもぜひ医師自身が取得することを勧めたい(1カ月ほどの勉強で十分である)。

■ 筆者の体験

 筆者は3年前に身体的理由と近隣の産婦人科施設との競合で分娩取り扱いをやめ、病室、分娩室、手術室を改築して、介護療養型医療施設に転換した。改築箇所は、エレベーター、リハビリ室、バリアフリー化、床下の強化(車いす対策)、特殊浴槽、各室のトイレ、てすり等の設置の他、介護車(軽自動車)、車いす、リハビリ用具、ギャザーベッド等を購入した。当初は戸惑いもあったが、現在は従業員も落ち着き、軌道に乗っている。入所者の疾患は、脳梗塞後遺症、パーキンソン氏病、脳血管性痴呆、変形性脊椎疾患等であり、病態の管理(投薬、検査、食事等)、ADL管理(リハビリ中心)が日常診療の中心である。研修会にできるだけ参加し、これらの疾患の知識吸収に努めるとともに、近隣総合病院の専門医との連携を密にして、常にコンサルトできる態勢にしている。外来では産婦人科医療を継続しており、入所者は婦人が圧倒的に多く、女性のトータルヘルスケアを実践していると思っている。入院はほぼ満床が続いており、今後新たな診療報酬の改定等があるにしても、高齢化社会の到来を考え合わせると、経営的には一応安定していると言えよう。

■ おわりに

 産婦人科開業医の役割が分娩の取り扱いであることは言うまでもないが、少子高齢化、周産期医療の過酷さ等により、分娩から撤退を余儀なくされている産婦人科医が急増していることも事実である。このような状況の中での高齢婦人の医療と介護について、自分の経験も踏まえ述べた。