日産婦医会報(平成14年8月)

分娩に関するインフォームド・コンセント
― より心の通うインフォームド・コンセントを求めて―

三宅医院(岡山県)院長 三宅 馨


【はじめに】

 周産期医療は喜びと感動、そしてやりがいの多い仕事であるが、時にリスキーで因果な仕事でもあるのだと実感させられる瞬間がある。通常は患者サイドから医療スタッフに向けられる信頼と感謝が、時として不信や疑念に変貌し、

さらには怒りを帯びたものになっていることを痛感させられるのである。

 このようなとき、問題になるのは患者サイドに医療の内容を納得してもらえるか否かであり、納得が得られるために、どれほど十分な事前の説明と同意(了解)があったかが争点となる。これこそインフォームド・コンセントの原点であり、今や医療現場の最重要課題として認知されている。当院では、単なる訴訟対策ではなく、より心の通うインフォームド・コンセントを目指したバースプランを実践してきたので、その一端を紹介する。

【歴史的考察】

 米国では、インフォームド・コンセントの概念が、1960年代、医療訴訟の判決文の中で、患者を救済するための理論として登場し、以来医療過誤訴訟の中心的役割を果たしている。

 一方、わが国では、1970年代になってから、法律学者や文化人、あるいは留学して帰った医師からの提案として、インフォームド・コンセントの概念が導入された。1980年代には、患者側に立った患者本位の医療が求められ、情報の開示が徐々に進み、1990年以降はインフォームド・コンセントが医療の主役として認められ、日常診療業務の一部として採用された。

【医療とインフォームド・コンセント】

 日本においては、平成2年(1990年)版の厚生白書の中で「インフォームド・コンセント(知らされた上での同意)とは、医師が患者に対して診療の目的・内容を十分に説明して、患者の同意を得て治療すること」と解釈されている。

 インフォームド・コンセント成立の過程は、一般的には次の3段階になっている。

  1. 医師が患者に症状や診断を説明し、その治療法について推薦順位を含めて選択肢を示す〈Informed Choice〉
  2. それらの選択肢から患者が自己決定権を行使して、自分の受けたい医療を自主的に決定する〈Informed Decision〉
  3. これらの段階を経た後、同意(インフォームド・コンセント)を得て、同意書(コンセント・フォーム)を作成し、署名(捺印)する〈Informed Consent〉

 これらの全ステップの合意が総括的に同意書として作成され、医師と患者各々の手元で証拠として保管される。

【当院における分娩とインフォームド・コンセント】

 妊娠・出産という人生の一大イベントを、高い満足度の中で無事に乗り越えた女性は、よりたくましく自信をもって生きるようになると言われている。すなわち、良い出産は育児への自信と希望、そして精神的ゆとりを生み、人間的成長を促すのである。

 当院では、以前より妊産婦主体の産科医療を目標に掲げさまざまな改善を試みていたが、個々の妊産婦の希望、こだわり、期待、本音などを上手に聞き出し対応すべく、今から10年前に助産婦外来を開設した。その後の時代の急速な変貌に伴い、患者といえども消費者意識に目覚めた妊産婦は、顧客としての意識、種々の価値観や多様なニーズを持ち始め、より大きな安心と信頼、こだわりと満足(感動)を期待するようになった。

 そこで私たちは、出産のスタイルや処置に関して分かりやすく説明し、選択していただく方式を採り始めた。さらに6年前にはインフォームド・コンセントを充実するためにバースプランを導入した。あらかじめ、妊娠8〜9カ月でバースプラン用紙を手渡し、自宅でゆっくり自分流の出産へのこだわりを記入して提出していただくのである。このバースプランを参考に、担当助産婦(師)が個々の希望とこだわりの相談に応じるようにしている。そして、これを双方の合意点の覚書としている。バースプランはコミュニケーション・ツールとして有用であり、今では当院で欠かせないものになっている。

【おわりに】

 妊産婦の生の声を聞くことのできるバースプランは、受益者である患者主導のインフォームド・コンセントとして注目される。このような心が通い合うインフォームド・コンセントがさらに進化し、妊産婦と医療者間の橋渡しとなり、さらなる相互信頼ときずなが結ばれることを願うばかりである。バースプランを皆様にもお勧めしたい。