日産婦医会報(平成14年9月)カルテの書き方
医療対策委員会委員 伏屋 道夫
【はじめに】
日本医師会による「診療情報の提供に関する指針」が施行されてから約2年半が経過し、診療録の開示請求があれば原則開示の時代に入ってきた。カルテをいかに書くかについては、日医の推奨するPOS/POMRにつき日医雑誌付録『外来診療録書き方の手引き』『外来診療録の上手な書き方』に詳細に述べられているので参照されたい。同付録は外来診療用として発行されているが、入院についても何ら変わるところはない。ここではカルテを記載するにあたって遵守すべき基本的留意点についてまとめてみた。
【診療録記載の留意点】
- 医師自身のメモであってはならない。公的文書である。
- インクまたはボールペンにて記載(図示のための色鉛筆、ゴム印の使用は可)し、訂正には必ず横線2本で訂正し、修正液を使用したり、書いたものが読めなくしたりしない。
- カルテ記録時には毎回日時を記入する。
- 患者の訴えをきちんと記録して、そうした訴えに対し、しっかり対応していたことがはっきり分かるようにしておく。
- 客観的なデータや事実を記載する。そのデータで診断や治療に関する結論を裏付けること。他の人が読んで、なぜそういう診断に至ったのか容易に分かるようでなければならない。
- 他人が読みやすい記録を心掛ける。できれば日本語での記載を心掛け、自分勝手な略語を使わない。訴訟時においては、英語、ドイツ語、略語等はすべて日本語に直さなければならない。
- 正常所見であっても記載すること。書いてないということは診てないことと同じである。
- 慢性疾患にて何も特記することがないから何も書いてない、ということがよく見受けられるが、そのことについて記載すればよいのであって、何も書くことがないということはない。
- 検査結果などは、結果用紙の貼り付けだけではなく異常値等はカルテに転記し、考察を加える。超音波検査、コルポスコープなどは所見の図示・説明を記載する。
- 記録内容の変更(削除、追加)時には必ず理由と日時を記入する。
- 口答指示は24時間以内にカルテに記録する。
- 電話等で患者に行った説明・指示は日時、内容を具体的に記録する。
- 複数の医師が記載する場合は、記載者のサイン(読めるサイン)が必要である。
- いろいろな意味に取れるような曖昧な言葉は使わない。
- 患者の性格や態度について批判的な意見を記録しない。
- レセプト病名を付けない。診療内容と病名に整合性があること。
- 処方内容、投薬日数、薬品名(%、 まで)、服用方法、外用薬においては使用方法、処置内容、手術名、指示事項、指導内容等、診療のつど詳細に記載する。処置などは第三者が見ても分かりやすいように範囲を図で示すとよい。
- ページの終わりの空いた部分は線を1本引いてつぶしておく。行を飛ばしたり、空いた部分を残さない。また、行の終わりに字を詰め込まない。
- 合併症、エラー、予想していなかった結果などに関しては、医学的な情報(患者がどのような影響を受け、どのような処置を受けたのか)を記録しておく。
- もし悪い結果が生じた場合は、事実に忠実にかつ言葉に注意して記録する。決して自己弁護的な記録はしない。
- 他の医師の診療行為に対する批判、事故の可能性を示唆するような表現は決して書いてはならない。
- カルテ開示だからといって必要以上に開示を意識し、事実を歪曲して記載するようなことがあってはならない。
- 保険診療と自費診療はカルテを分けて記載する。
- POS(Problem Oriented System)で書くことが望ましい。
【おわりに】
短い診療時間の中で正確に事実を記載し、第三者に理解できるようなカルテを書くということは大変なことである。今回書かせていただいたことが少しでも皆様のお役に立てば幸いである。