日産婦医会報(平成15年2月)

診療所の自己機能評価

日本産婦人科医会医療対策委員会副委員長 小関 聡


【はじめに】

 医療を取り巻く環境は年を追うごとに厳しくなり、その勢いは天井知らずと言ってもよい状態である。さまざまな事故が起こる度に、その対策が議論されているが、先手を打つことができなかったか、誰しもが考えることである。そのためには日常の医療と医業の内容を振り返り、自己評価をする必要がある。本項では、医療対策委員会で検討した自己評価のためのチェック項目を幾つか列挙する。

1 診療、経営の基本方針

1)専門医とかかりつけ医の両面性を使い分けているか。
大学病院などで自分の得意分野を究めてきても、開業後は一部の不妊クリニックなどを除き、幅広い分野を扱うことになる。自分の専門分野を生かしつつ、専門外に関してはいつまでもこだわり過ぎずに紹介することが必要である。
2)連携は滞りなく行われているか。病診のみならず診診
連携も積極的にすべきである。特に診診連携は、同じ産婦人科間でも得意分野を認め合いながら推進したいものだ。
3)古い知識や慣習に囚われていないか。
経験がものをいう世界であるが、医学知識に限らずトラブル発生時の対処法まで、かつての常識が今や非常識ということが多々ある。
4)経営的に安定しているか。またはその見込みがあるか。
経営的に不安定であると、当然診療にも影響する。

2 診療の実際

1)患者氏名確認はきちんと行われているか。
同姓同名よりも似た名前の方が間違えやすい。旧姓が同姓同名となる患者が、診察室に入ってきたケースもあった。
2)プライバシーに関して配慮がなされているか。
3)インフォームド・コンセントの体制が確立しているか。
4)感染予防のための対策がなされているか。
手洗い、医療器具の滅菌、感染性疾患(疑い)患者の応対は適切か。
5)注射、薬の手順が整備されているか。
注射時、複数の職員により確認されているか。劇薬、指定薬の管理。また処方薬剤量の確認はどうか。服用方法、副作用について適切に情報提供されているか。
6)電話による問い合わせにきちんと応対しているか。
電話再診については、様々な問題点が指摘されているが、医療事故を防ぐという点では最大限に活用すべきと考える。
7)カルテは漏れなく記載されているか。
開示に耐えられるか。本項に関しては本会会報2003年1月号別冊「医療と医業特集号」に記載要領がまとめられている。
8)夜間、休日の急変時にどこまで対応できるか。
患者の大病院集中を招いた主因はここにある。急変が予想されるケースは早めに紹介状を書き、病診連携の上でフォローする。産科領域でのオープン、セミオープンシステム化は、今後の重要課題の1つである。
9)疾病予防のための患者教育を行っているか。
なお、2002年10月よりすべての病院・有床診療所は、医療安全管理体制と褥瘡対策を講じ、届出なければ入院基本料、特定入院料が減算されることになった。

3 施設

1)日常の点検や清掃が行われているか。
また古い施設であっても、それなりの改修がなされ清潔感を与えているか。

4 職員

1)医師の指示が正確に伝わっているか。
また医師が通常と異なる指示を出したときに、職種、地位に関係なく自らの意思で再確認できる人材であるか。
2)新しい知識の習得に努めているか。
3)役割分担と責任体制はどうか。
病院と異なり、一人で何役もこなす。突然欠勤したときでも業務に支障がないか。
4)定期健康診断は行われているか。
特に妊娠した女子職員に対して、産婦人科医として十分な配慮をしているか。

【おわりに】

 病院に関しては、厚労省の外郭団体である日本医療機能評価機構が審査と認定に携わり、病院の質の向上に大きな役割を果たしている。しかし診療所に関してはまだなく、今後もその設立の条件や地域の特性などから多岐に亘る評価項目の設定は難しいと思われる。今回はそれらに関係なく、最小限に共通すると思われる事項を列挙した。実際の評価では各施設に見合った項目を加え、それぞれの項目を一定期間ごとに段階評価(A.B.Cなどランクづけして評価)されることをお勧めする。“自己”を“自院”と拡大解釈して、従業員参加で評価できれば、なおさらである。このような評価が診療所の機能向上に寄与することを希望する。