日産婦医会報(平成15年6月)

周産期救急医療の病診連携に関する調査 (1)
 ― 救急搬送の現状を送る側と受ける側で比較して ―

医療対策委員会委員 角田 隆


【はじめに】

 日産婦医会報2003年1月号付録「医療と医業・特集号」では、周産期救急医療の病診連携に関するアンケート調査結果を、「患者を送る施設」(以下“送る施設”)、「患者を受け入れる施設」(“受ける施設”)各々に分けて報告した。今回、周産期救急医療の現状と問題点をより鮮明にする目的で、双方の施設の調査結果を比較して改めて報告するとともに、今後の周産期病診連携の方向性を提言する。

【調査結果】

“送る施設”決定に関わる環境

 周産期救急情報システムや病診連携室は、調査全体の60%以上の地域に存在し、“送る施設”で約90%、“受ける施設”で約60%がシステムを利用し、“送る施設”がより積極的に利用しているといえる。診療内容(受け入れ可能条件など)を「公表されて(して)いる」とした施設は“送る施設”の42%に対し、“受ける施設”の70%と高率であった。

紹介の方法に関わる環境

 “送る施設”が“受ける施設“を決定する手段は、電話が61%で、インターネットは約1%に過ぎなかった。受け入れ施設決定後の情報手段は、“送る施設”では「紙面」が多く、“受ける施設”では「ファックス」が多かった。救急搬送の円滑性に関わる問題救急搬送は、約80%がスムーズとの回答であった。スムーズでないケースを“送る施設”に問うと「受ける施設確定に時間がかかる」、“受ける施設”に問うと「タイミングが遅い」、「搬送まで時間がかかる」との回答であった。“送る施設”が搬送を断られた場合、40%は自ら他の“受ける施設”を探さねばならないことも浮き彫りとなった。

紹介状記載や情報量に関わる問題

 約20%で紹介状に「不便を感じる」との回答を得た。“送る施設”では、「緊急時の紹介状作成が煩雑」、“受ける施設”では、「情報量の不足」、「判読不能」が主な理由であった。双方の施設の約90%が紹介状以外のデータが必要と回答した。必要なデータは、「検査データ」が最多で、次に「画像データ」であった。「カルテ」と回答した施設は“送る施設”の36%に対し、“受ける施設”は55%と高率であった。

救急搬送時のトラブルに関する問題

 トラブルは、“送る施設”で18%、“受ける施設”で37%に存在した。原因は「病状説明や治療内容が異なる」が約50%で最も多く、次いで「搬送時期の遅れ」であった。

スタッフとの交流について

 交流は、症例検討会、講演会や研究会を通じて行われ、80%以上の地域で行われていた。

逆紹介(状態が落ち着いてから戻す)について

 逆紹介の有無は、病診連携が円滑か否かの1つの指標となるが、“送る施設”の58%で逆紹介を受けていることが明らかとなった。その基準は、「診療レベルに応じて」45%、「紹介元へ」15%、「紹介元以外へ」3%であった。

経過報告について

 双方の施設で「治療後にある(する)」が約50%、「紹介時と治療後の両方ある(する)」が約25%であった。「報告がない(をしない)」も約5%に存在した。

【小括】

 周産期救急搬送ではその緊急性、特殊性から、“送る施設”では「早く搬送したい」、“受ける施設”では「診断や治療方針の決定に多くの情報がほしい」との認識は必然と考えられる。これらの条件を満たすべく、搬送先決定に周産期救急システムや病診連携室を活用する施設が60%以上に認められた。アクセス方法は電話が多く、これは簡便で双方向性があるためと思われる。
 しかし、“受ける施設”に断られた場合、他の施設を自分で探さなければならないケースが40%存在し、周産期救急システムや病診連携室の機能は十分確立されていないことが明らかとなった。“受ける施設”の診療内容の公表や空床の有無、紹介状記載法の統一化、救急搬送時のルール作りを積極的に行うことで、情報共有が更に進展すれば搬送までの時間のロスが減少する。さらに、双方の施設の交流により、互いの状況や考えを把握することも重要である。救急搬送は“送る施設”が“受ける施設”を探すことに始まり、診療情報の提供、搬送、“受ける施設”での治療、経過報告など、一連の流れを経て終了する。現在、この流れの中にITの占める割合は極めて少ないことが明らかとなった。
 (以下次号に続く)