日産婦医会報(平成15年7月)周産期救急医療の病診連携に関する調査 (2)
― IT活用に対する認識と今後への提言 ―医療対策委員会委員 角田 隆
前号に続き、周産期救急医療の調査結果を報告する。
ITの活用と理想的な紹介システムについて
「紹介法にIT活用はどうか」との設問では、双方の施設とも「利用すべき」が35〜45%と肯定的な回答が認められた。一方、緊急時の対応、セキュリティー、コンピュータ操作への不安などIT利用を危惧する意見も認められた。
利点は、双方とも「双方向で大量の情報交換が可能」、「情報共有と再利用に有用」との認識であった。「データの蓄積が可能」との回答は、“送る施設”22%、“受ける施設”50%であった。現時点での「理想的な紹介システムとは」の設問では、“送る施設”で「紙面にて」、「ファックスにて」が30%以上に、“受ける施設”で「電話と紹介状のみ」72%、「ファックス」が34%に認められた。IT活用による「共通のフォーマット形式での紹介状作成」や「電子メールでの紹介状作成」が有用との回答が、“送る施設”でそれぞれ28%、9%、“受ける施設”でそれぞれ40%、20%に認められた。診療内容情報の公表の必要性について
前号では既に「公表している」施設の割合を述べたが、「情報の公表は必要か」という問いでは、“送る施設”“受ける施設”でそれぞれ75%、88%が必要との回答であった。
【総括】
救急搬送では、“適切な時期”に“適切な施設”に搬送することが重要である。現時点での紹介方法は電話や紙面、ファックスの利用が優れているとの認識であるが、情報量や効率面に限界がある。円滑性の向上には発想の転換が必要で、種々の問題点は存在するものの、IT活用の促進が必須と考えられる。今回の調査結果を基に、救急搬送の効率向上とIT活用促進のため以下のごとく提言する。
1.“適切な時期”に“適切な施設”へ搬送するために
1)“送る施設”
- 早期に適切なスクリーニングを行い、搬送が予測される患者を抽出する(ハイリスク、ローリスク群の分類)。
- 周産期救急システムや病診連携室(以下搬送システム)の利用に心がける。
- 積極的な交流を行い“受ける施設”と連携を強化する。
- 搬送システムのない地域では、早期確立を働きかける。
- 逆紹介受け入れ可能な体制を整備し、働きかけを行う。
2)“受ける施設”
- 搬送システムの存在する地域では積極的に参画し、情報共有システムの確立に努める。
- 診療内容(患者受け入れ可能な条件等)の公表。
- 逆紹介を推進し、ベッドの確保に努める。
- 搬送受け入れが不能な場合は、事前にベッド情報の公表、他の施設へ紹介可能な情報共有システムを整備。
3)“医療行政”
- 24時間稼動可能な搬送システムの確立を推進。
- 病診連携室の整備とネットワーク構築を援助。
- 搬送手段の充実、特に遠隔地での搬送に資金援助。
2.施設間のトラブルをなくすために
1)紹介状の書式統一を図り、IT活用による共通フォー マットにより情報共有化を促進する。
2)病状の説明について
- 本人と家族に、病状および搬送の必要性を詳細に説明。
- “受ける施設”での治療内容の過剰評価や治療を制限しないよう説明に心がける。
- 患者への病状説明内容を“受ける施設”に正確に伝達。
3)施設間の交流を積極的に行い、施設の規模、診療内容、双方の考え方や立場など、情報の交換を行う。さらに逆紹介を“受ける施設”に働きかける。
4)経過の報告は、搬送時と治療後の両方行う(義務)。
3.ITの利用を促進するために
1)誰でも操作可能なITソフトやハードの開発を急ぐ。
2)ITの利点やセキュリティーへの認識を高め、情報の共有にIT活用が不可欠であることを理解せしめる。
3)IT活用による診療内容の公表や、ベッドの稼動状況を医療機関に開示するシステムを構築する。
4)医療情報の共有のため、アーカイブ事業の促進、情報フォーマットの共有化を図る。
5)医師に対して、日常よりITの積極的な活用を促し、ITの取り扱いに精通するよう働きかける(最も重要)。
われわれ医師にとって、“IT活用なくして病診連携は成立しない”との意識改革が必要で、産婦人科医会や医師会はITに対する更なる啓発活動が必要と考えられる。