日産婦医会報(平成15年10月)「開業助産婦さんへのアンケート調査結果」から
- 助産所に対する支援の検討と嘱託医師の問題 −医療対策委員会委員長 可世木成明
厚生労働省の統計では、助産所の扱う分娩は1%強に過 ぎないが、助産所に根強い人気があるのは、妊産婦の立場 に立った快適な分娩を目指していることが評価されている のであろう。一方助産所には「安全な医療」に関して問題 点のあることも否定できない。
医療対策部では、開業助産所の実態について日本助産師 会の協力を得て調査を行った。報告書は各支部に送られて おり、その一部は『日産婦医会報』平成15年1月号別冊「医 療と医業・特集号」に掲載されている。助産所の実態につ いてはこれらをご参照いただき、本稿では助産所に対する 支援の検討と嘱託医師の問題を取り上げる。
今回の調査は平成13年10月に、全国助産婦会推薦の開業 助産婦438名に無記名で回答を依頼し、回収数は236件(回 収率53.9%)であった。本調査の時点では助産婦の名称が 使われていたので調査に関しては旧称を用いた。嘱託医師、産婦人科施設に対する要望
現状で可との回答は23%であった。
嘱託医制度を充実してほしい、近くの病院に嘱託医と なってほしい、搬送は原則として嘱託医師を介することに なっているが、時間のロスが惜しいので、急変時に高次医 療施設に直接搬送できるシステムがほしい。助産所に対する支援の検討と提言
助産所の問題点として心配されるのは「安全な医療」で ある。各種の情報で多数の問題症例が挙げられている。
保助看法による助産師の業務は正常な助産に関すること であり、医療行為は原則として医師の監督下に行われなけ ればならない。医学的管理が必要と判断される妊婦のリス クを早期に発見し、医師による診断と治療にゆだねること が助産師の重要な責務である。このためには助産所であっ ても経腹エコー、CTG(法的には診断することは良いが 告知は許されない)などの整備も必要になろう。医療措置 ができない以上、病院以上にハイリスクをスクリーニング する能力が要求され、診断技術の向上に努めるべきである。
助産所は医療施設と区別されているために、周産期緊急 医療体制から外れているが、今後はこれに組み込んでいく 必要があると考えられる。周産期医療協議会に加わって、 カンファレンスにも参加し、そこで安全・非安全の見極め を十分に教育することが重要ではないだろうか?嘱託医師の問題
医療法第19条には助産所開業時に嘱託医師を届け出るこ とと規定されている。
今回の調査で契約医師なしが9件あった。嘱託医師の28%が現在分娩を取り扱っていない。報酬ありは18%に過 ぎず、52%が口頭による依頼であった。医療側からは責任 の所在がはっきりしない、診療内容が伝達されないなどの 問題点が指摘されている。
嘱託医師について以下のことが望まれる。
1)必ず契約書をもって行い、その内容を文章で明記する。
2)嘱託医師は産婦人科医とする。
3)嘱託医師は2人(2施設)以上とする。
4)提携診療所・病院は緊急に対応できる距離にあること
が望ましい。
産婦人科医が嘱託医師となり、責任を持って助産所を支 援するためには、契約内容を明瞭に規定する必要がある。 そこで「嘱託医師委嘱契約書」の案を作成した。詳細は報 告書あるいは前述の「医療と医業・特集号」5頁をご覧い ただきたい。まとめ
- 助産所には長所の反面、緊急時の対応に問題があり、 嘱託医師の制度が十分に機能していないことなど問題の多 いことが判明した。嘱託医師の機能発揮のため契約書の案 を作成した。
- 総合・地域周産期母子センターを中心とする、高度周 産期管理のシステムの中に助産所も包含すべきと考えられ た。
本問題に関しては厚生科学研究費(こども家庭総合研究 事業)による研究、厚生労働省委託「開業助産所と病院・ 医院とのネットワーク推進検討委員会」などいくつかの検 討が行われつつあり、本調査結果も参考として役割を果た している。