日産婦医会報(平成16年1月)

「分娩取り扱い中止後に関する調査」より
 
−アンケート自由記載欄に書かれた声−

医療対策委員会副委員長 小関 聡


 医療対策委員会では、平成14年に「分娩取り扱い中止後に関する調査」を行い、その結果の概略を日産婦医会報平成15年1月号付録「医療と医業・特集号」に掲載した。
 今回、アンケートに返答された全211例を対象とし、自由記載欄に書かれた内容を類別集計し、分娩取り扱いを中止した先生方の生の声に迫ってみた。

◇ 身体的負担よりも精神的重圧

○ 分娩を中止してよかった点について意見をまとめた

 ・ 精神的圧迫からの解放

 ・ 時間的束縛からの解放

 ・ 身体的に楽になった

 ・ 旅行など余暇が持てる

 ・ 医療事故の心配がなくなる

 ・ 従業員人事の手間が軽減

121

40

27

29

10

10


 「電話の音を聞いてもゾッとしなくなった」などの回答 も見受けられたが、精神的圧迫からの解放に含めた。この恐怖感は、ほとんどの先生が実感されたことであろう。以 上の数字からも分かるように、精神的圧迫が身体的苦痛を大幅に上回っていた。分娩取り扱いがいかに大きな負担であるかが、改めて示されたことになる。以下「外来患者に 余裕を持って接することができるようになった」「勉強の時間が得られる」「家族に申し訳ないことをしていた」という記載があった。

◇ やはり収入減がトップ

○ 分娩を中止して困った点について尋ねた

 ・ 収入が減った

 ・ 患者が減った

 ・ 情けなくなった

49

25

19

 アンケート調査本文では、分娩取り扱いを中止すれば当然経費も減るので「純益」という言葉で問うてみたが、自由記載欄ではあらかじめ定義することもできないため全例「収入」という言葉での回答であった。
 ちなみに本調査(医療と医業・特集号掲載)では純益が増加〜25%減の範囲となったケースは全体の20%に満たなかった。また、患者が減ったという意見の中には、「分娩中止と同時に閉院したと誤解され、困った」というケースもあった。単に「分娩の取り扱いを中止します」と言うだけでなく、噂による伝播も考慮しその表現にも気を遣わなければならない。

◇ 中止前から他科の勉強を

○近い将来、中止を予定している先生への助言をまとめた

 ・ 中止前から他科の勉強を

 ・ できるだけ早くやめた方がよい

 ・ 収入の確保をきちんと

 ・ やめるならきっぱりと

 ・ 徐々に段階的にやめるのがよい

 ・ やめるかやめないは
 個人の問題である

 ・ 中止後の連携先も確保

26


 

 分娩取り扱い中止後は、婦人科以外に他科の疾患も診なければならない。「他科の勉強を」という意見が最も多いのは当然のこととうなずける。インターン時代や留学時の経験や知識が役立ったとの意見もみられた。来年度からの新しい研修医制度にはさまざまな問題点が残っているが、若い頃に経験したり耳に挟んだりした他科の症例が、10年後20年後に役に立つことを期待する。
 興味あるのは「きっぱりやめる」という意見と「段階的に」の双方があることである。それぞれの実態にあった方法をとるべきと解釈する。

◇ 医療事故と健康に気をつけて

 現在最盛期にある先生へのアドバイスでは、

 ・ 医療事故に注意

 ・ 自分の健康に注意

 ・ 税務対策

 ・ 病診連携をしっかりと

 ・ 拡大は容易、縮小は困難

16

16

 の順であった。

まとめ

 狭い回答スペースに、細かい字でぎっしりと記入された先生が大勢おり、それぞれの人生観が感じられた。われわれ後輩に対する貴重な助言とも受け止めたい。今後は中止後最大の関心事である収入面での調査を進めていく予定である。