日産婦医会報(平成16年8月)

出産費未払い問題
 −東北ブロックにおける出産費未払い調査より−

医療対策委員会委員 小笠原 敏浩


【はじめに】

 日本の保険医療制度では、医療機関を受診した場合には窓口で負担金を徴収することになっている。しかし、医療費未払いは依然として後を絶たないのが現状である。
 平成15年12月、東北ブロックの産婦人科医療施設511施設(病院200施設、診療所311施設)に出産費・医療費未払い人数・被害額、増減、出産費貸付制度、国民健康保険の出産育児一時金受領委任払い制度の利用状況、対策について質問紙法にてアンケート調査したのでその概要を報告する(回収250施設、回収率48.9%)。

【出産費未払い状況】

 最近1年間の出産費「未払いなし」102施設(40.8%)、「未払いあり」128施設(51.2%)であった。「全額未払いあり」は90施設(36%)、そのうち1施設での被害額100万円以上16施設(17.8%)で、最高被害額は370万円であった。「分割未払いあり」は98施設(39.2%)、そのうち1施設での被害額100万円以上11施設(11.2%)で、最高被害額は367万円であった。

【未払い件数の推移】

 「未払いが増加している」107施設(42.8%)、「減少している」23施設(9.2%)、「変化なし」97施設(38.8%)であった。

【出産費貸付制度の利用状況】

 「積極的に利用している」41施設(16.4%)、「利用している」93施設(37.2%)、「積極的には利用していない」92施設(36.8%)であった。

【出産育児一時金受領委任払いの利用状況】

「利用している」56施設(22.4%)、「利用したい」76施設(30.4%)、「利用していない」79施設(31.6%)、「興味ない」8施設(3.2%)であった。

【未払い対策】

 「通知書・督促状・訪問」43施設、「前金払い(人工妊娠中絶)」17施設、「分割支払いを勧める」14施設、「誓約書や借用書を書いてもらう」14施設、「入院時保証金を預かる」10施設、「各種制度の利用を勧める」9施設の順であった。「対策なし」13施設、「あきらめる」2施設などどうにもならない状況を伺わせる記載もあった。
 基本的な対策を列挙すると次のようになる。未払い相談窓口を充実し、特に外来や母親学級などの場で支払方法や各種制度の分かりやすい説明をする。妊婦の生活状況・医療費の納入状況を把握し、入院前に支払能力があるかどうか推定し、事前に対策を立てる。入院誓約書により連帯保証人を含めて分娩費用・入院費用が期日までに支払われるように確約させるのが一般的であるが、未払いが予想される場合は、入院時保証金、分娩予約金を一時的に預かることも必要である。督促を行う場合は督促記録(督促日時、方法、話し合い内容など)を具体的に残しておく。督促に応じない場合は保証人、家族・会社にも連絡を取ることも必要になる。
 それでも支払いがない場合は小額訴訟制度(簡易裁判所が1回の審理方の言い分を聞き、証拠を調べ、即日判決を下す制度。平成16年4月1日から限度額が60万円に引き上げられた)も選択肢になるであろう(参考URL自分で出来る法的手続きなど)。

【さらに深刻な問題】

 出産費貸付制度を推奨しても、貸付申込者(被保険者)が出産育児一時金を直接受け取るため、病院や診療所に支払われず、生活費やローンの返済に使用される可能性がある。また、出産育児一時金受領委任払いは適応が狭く、社保に適応されていないことや、実際に利用しても、税金や滞納金があると市町村が出産育児一時金から引き落とす例がある。

【まとめ】

 出産費未払いのある施設が全体で51%であり、全額未払いのうち被害額が100万円を超過している施設が17.8%にも及び、医業の大きな問題と言える。その対策として、出産育児一時金受領委任払いの社保を含めた適応の拡大が必要であろう。しかし、貧困で全く支払能力がない者、払う意志のない者から未収金を回収するのは至難の業と言える。これを根本的に解決するには無銭飲食同様に刑事的・法的強制力が発揮されるような制度の施行を行政に働きかけるのも医会の役目と思われる。