日産婦医会報(平成16年9月)ISO9001を取得して
医療法人社団ワイズレディスクリニック 瀬川 裕史
【ISO9001取得理由】
クリニックの評価が自己満足に終わることがないように第3者からの評価が必要と考えていた。その時、サービス業界では本来製品の品質マネジメントであるISO9001を取得している企業が増えていることを知り、導入によりさらなる医療サービスの向上が図れると考えた。
【ISO9001とは】
国際標準化機構が定める品質マネジメントの規格 (参考)ISO9001キックオフまでの道のり開院以来、来院者のためのクリニックとして運営し、平成11年頃から取得を考え始めていたが、分娩数の増加とともに、新しいスタッフの採用も増え、自分の考えがスタッフに浸透せず面映ゆい思いをしていた。そこで、外部講師の研修の導入をはじめ、自分自身の考えも含めて内部改革を行っていった。1年が経過する頃には自分の考えも徐々にスタッフに浸透し、ISO9001取得への布石を着々とでき、平成14年11月末に基礎が作れたと判断しキックオフ(認証に向けてのスタート)した。
【ISO9001取得メリット】
他の業種ではISO9001の取得をしていないと公共事業や海外での取引などの参入ができない一方、取得による企業イメージアップなどで収益が上がるという外的メリットがある。病医院でも顧客第一主義のもと、スタッフによる医療サービスの向上が図られ、病医院の評価が上がることで収益は増える可能性がある。さらにクリニックの理念をスタッフに浸透させ、顧客重視の姿勢を来院者に示し、全員参加、プロセスアプローチ、PDCA(plan、do、check、action)などによるシステムの継続的な業務改善が行われるため、常に向上する意識を共有でき、恒久的に質の高い医療を提供できる。
【ISO9001取得までの期間と費用】
キックオフから取得までは約1年(当院は9カ月)要するが、コンサルタント料金は期間が長ければ長いほど上がるのでできるだけ短期間にしたい。当院では、コンサルタント料が約420万円、審査料が約150万円、雑費を含めると総計600万円近くかかった。取得後は継続審査が1回約30万円、認証登録維持費用(年間)が13万円程度かかる。
【取得後の審査】
半年または1年ごとに継続審査を行い、3年後に再審査を受ける。
【取得のコツ】
(1) まず、自らがISO9001を理解し、ISO9001取得のメリットを知り、院長が自分の意思をトップダウンで伝えることがスタートとなる、(2) 管理責任者の適任者選出(これが自分の負担を減らす)、(3) 良いコンサルティング会社や審査会社にめぐり合うこと(金額とコンサルタントや審査員との相性が問題) 、(4) スタッフのモチベーション維持(ほめる他にボーナスでの手当や慰労会も行った)、(5) 文書化する業務への対応(ある程度完成したマニュアルがあればそれを統一したフォーマットに直す程度で済む)。
【取得後の変化】
これで直接来院者が増えたということはないが、来院者からはより信頼できるクリニックと言われるようになった。そして、スタッフの意識改革が起き、アンケートなどによって指摘された不具合の是正・予防処置、また内部監査や継続審査などにより各セクションの改善が早く進むようになった。また自ら新しいことを取り入れ、業務の変更が自発的に行われるようになり、目を細める機会が増えた。余談だが、妊婦健診に付き添いできた夫がISO9001を会社で取得したとのことで、苦労話に花が咲くこともあり思わぬコミュニケーションになることもある。
【最後に】
ISO9001の取得はそれなりの努力と投資も必要だが、スタッフが自分の職場と職種に誇りを持ち、やる気と自信を深め、診療に専念できるようになった。今後、国際的な認証という外的な評価に実質評価(診療報酬での評価など)が加われば、より投資に見合うものになると思う。
〈医療対策部より〉
現在、病院機能評価や適合性評価など第3者評価の認定を受ける施設が増加している。今回はISO9001を取得した先生に取得の流れやメリットなどを解説していただいた。