日産婦医会報(平成17年02月)

一分娩・入院に必要な費用(1)

常務理事 佐藤 仁


 「健やか親子21」では“妊娠・出産の安全性と快適さの確保”のために、妊産婦死亡を半減させる目標を設定した。安全性の確保には施設、設備、人的配置、対応能力等々多々あるが、改善改良が必要な場合には費用がかかる。現在の分娩費用は適切か? 現在の状況を検討し、将来に役立てたい。
 今回、一分娩・入院期間中の原価を検討し算出してみた。

調査施設の概要

 当佐藤病院は都心より100km北、関東平野北端に位置する高崎市で産科婦人科を専門とする単科病院である。病床数84床、分娩総数年間約1,600、入院患者の70%が産科患者である。施設は昭和初期からの外来棟を含めた建て増し施設であったため、平成9年に全面新築した。以後8年間順調に推移しているがそれなりの借財がある。

基礎調査

  1. 1時間あたりの人件費:人件費の算出にあたっては、都内A 病院、I 総合病院産婦人科及び当院の3病院の平成15年度における平均単価を用いた。
     時間あたりの人件費単価は各職種の年間総支給額の総額を人数で除し、さらに12カ月と1カ月172時間で除し基準単価を算出した。
     (各職種年間総支給額の総額)÷(人数)÷(12カ月)÷(172時間)
     総支給額には基本給、時間外・各職手当、家族・住宅手当等に賞与も含む年間総支給額である。
     この基準単価に平均法定福利費、福利厚生費を加え、各職種の時間あたりの人件費単価、時給とした。
  2. 分娩所要時間:入院分娩所要時間を初産婦109例、経産婦96例、計205例を集計し、平均14時間1分と算出した。
    新生児は一昼夜経過観察の後母児同室としている。
    聴覚検査、代謝異常検査等は後日新生児室にて施行。

諸費用

 労務人件費についてはあくまでも出産患者1人に対して直接関与した医師、コ・メディカルそれぞれの労務作業の所要時間を集計したものであって、その間の施設側が支払った人件費ではない。
 直接経費は分娩入院中の検査をはじめ経費、消耗品等である。
 間接経費はIとIIに分けたが後述する。

  1. 人件費:まず、分娩室・新生児室・病棟・その他の部門の4部門に分類し、医師、助産師、看護師、看護補助者、薬剤師、検査技師、栄養士・調理師、医事職員の8職種についてそれぞれの項目(約20〜30項目調査シートを作成)に対する所要時間調査を正常分娩の患者に行い、4部門ですべて調査し得た有効55例を集計した。
  2. 労務人件費の算出:分娩室、新生児室、病棟、その他の部門の各職種による直接関与した労務時間の平均時間数を算出した。
     入院診察は医師による診察及び説明時間の平均である。分娩は全て医師が取り上げている。
     医師の指示のもとに助産師、看護師、准看護師が各種観察、援助を行っている。
     正常分娩のみに限ったために医師の関与時間は少ない。
     入院より分娩終了後病室移室までの平均14時間1分に対し直接関与した時間は、医師→1時間23分助産師-->5時間32分看護師-->7時間56分准看護師-->1時間13分。関与時間に時給を積し、それぞれを加え分娩室での人件費を算出。
     新生児室における約一昼夜の監視、処置、診察および入院中の聴覚検査(AABR)、代謝異常検査採血等も集計し計算、人件費を算出。
     病棟は平均6日間の直接関与時間を調べ集計し計算、直接人件費を算出。その他の部門(薬剤、検査、調理、医事)も同様に算出した。これらを加算し入院から退院までの直接労務費を算出した。
     (分娩室)+(新生児室)+(病棟)+(その他の部門) --> ¥192.612 (1)
     これはあくまでも直接関与した労務人件費であって、同時間帯勤務の医師、当直医師、三交代勤務その他の助産・ 看護師、他事務職等々諸々の人件費は加味されていない。

 紙面の都合上、以下は次号に掲載する。