日産婦医会報(平成17年03月)一分娩・入院に必要な費用(2)
常務理事 佐藤 仁
(前2月号に引き続き、必要な費用について述べる)
労務人件費: (分娩室)+(新生児室)+(病棟)+(その他の部門) --> ¥192.612 (1)諸費用
- 直接経費:主に分娩時、新生児室、病棟にて使用するディスポ製品や薬剤、周辺機器、食材費用等である。高価な医療機器については、
購入価格÷耐用年数÷分娩数
で計算した(分娩数が少なければ1分娩に対する単価が高くなる)。
直接経費 --> \54,800 (2)- 間接経費(平成15年度費用):
I.当院における病院経営、運用上の必要経費(電気・ガス・水道料、リネン・ルームクリーニング、広告・接待・通信・車両、保険・公租公課等)。
II.当院に必要な年間経費(償却資産、固定負債、地代、損害保険等)であり、この項は各病院施設により変動するものと考える。上記で得たそれぞれの経費総計金額を、年間365日で除し、1日あたりの金額に0.7(入院外来比7:3)を積し、1日あたりの病室経費金額を算出、これを1日平均入院数(54人;平成15年度)でさらに除し、入院患者1人に対する間接経費I、IIを算出した。これに入院平均日数7日を掛けた。
間接経費( I + II ) --> \113,938 (3)1分娩・入院にかかる費用
人件費+直接経費+間接経費 ((1)+(2)+(3)) --> \361,350 (4)
人件費は直接関与した時間の和の労務人件費であり、病院施設が支出したすべての人件費から算出されたものではない。正常分娩を対象としたもので医師の関与時間が少ない。
1分娩入院にかかる費用が算出されたが、病院施設が今回計算されない人件費を支払い安定した運営を行ってゆくためには、それなりの経費または利益が必要である。一応、諸経費を10%加算した場合 --> \397,485 (5) となる。1人の赤ちゃんを産むためには(初診から退院まで)
妊娠初期から産褥1カ月までの費用を検討してみる。妊娠初期健診から分娩入院までの諸検査、厚労省指針による健診回数、必要検査の費用を医会が定期的に行っている全国調査を引用し算出してみた。諸項目における費用は、全国支部における平成15年度の最多値(平均値ではない)を
用いた。妊娠中にかかる費用+必要検査 --> \162,500 (6)
現在、各種産前産後教育が行われている。当院で行っている産前教育およびその費用について周産期医学 Vol.34 No.12 2004年に報告した。各種指導費用 --> 約\20,000 (7)
今回算出された人件費は1分娩に対する直接労務費であってすべての人件費から算出されたものではない。よって40万円で計算してみる。(5)+(6)+(7)
出産費用(400,000)+妊娠中健診費用(162,500)+指導費用(20,000)
正常な妊娠、出産で約58万円の費用が必要になる。出産の安全確保と快適性のために: 監視、介護、介助、処置、看護等を再検討し労務時間を集計して前述の時給(平成15年度)で算出した。
検討後の直接労務人件費 --> \299,516 (1)'
前述の直接経費、間接経費( I + II )を加えると --> \468,254 前述と同様10%の経費を加えると約51万円(5)'が算出された。これに外来分を加えると (5)'+(6) で正常な妊娠、出産では約69万円の費用が必要になる。考察
今回、当院における正常1分娩・入院に対する直接労務時間を分単位で調査し集計した。これに基礎調査で算出した時給を積し直接労務人件費を算出した。この人件費に直接経費および間接経費 I・II を加え1分娩・入院費を算出した。正常分娩のみを対象としたため医師の関与時間が少ない。正常産褥婦であるため病棟看護師の関与時間も少ない。
人件費は直接関与した時間の和の労務人件費であり、病院施設が支出したすべての人件費から算出されたものではない。
妊娠・出産の安全と快適さを確保するために再検討後の人件費は約10万円増であるが、これを達成するためには助産師、看護師を倍増せねばならない。コ・メディカルの倍増、特に助産師の倍増は非常に困難である。
(今回紙面の都合上、詳細は省略しました。お問い合わせは医会医療対策委員会までお願いします)