日産婦医会報(平成17年11月)

自治体病院統廃合
− 自治体病院の存続を模索したモデルケース −

医療対策委員会委員 小笠原 敏浩


はじめに

 自治体病院はおよそ6割が赤字経営であり,その事業主である地方公共団体の財政も借入金残高の増大など危機的状況に瀕しています。今回、岩手県釜石市が運営する釜石市民病院(250床)と岩手県が運営する岩手県立病院(272床)は平成19年4月に統合されることになりました。自治体病院の生き残りを模索した結論として統合に至った経緯などを紹介します。

市民病院の将来の存廃をめぐる論議から

 県立釜石病院と釜石市民病院は、ほぼ同規模で急性期医療を担っています。その他に国立釜石病院、せいてつ記念病院があり、規模や医療機能が似かよった4つの病院があります。県立釜石病院は平成12年度より経営収支が赤字から黒字に転じましたが、釜石市民病院は赤字を解消できず現在に至りました。市議会は釜石市に病院が減るとなれば反対運動が起こることを恐れ、県が打診した病院統合という十年来の問題を先送りしてきました。しかし、今年度で30億円に迫る累積欠損金を抱える釜石市民病院の将来の存廃をめぐる議論は「人口減少が続く地域で患者の争奪戦をしていては共倒れになる。機能分担という中途半端な共存
策でなく、県立病院を廃院にし、市民病院を存続すべきだ」という方向性が示されました。そして、平成14年7月に行われた釜石地域の保健医療に関する懇談会では、県立病院が撤退した後の市民病院の医療体制を中心に議論されました。

産婦人科医師引き上げが方向性を大きく変えた

 しかし、平成15年9月に釜石市民病院と大学病院の委託業務費受領問題が浮上し、更に、釜石市民病院から小児科常勤医引き上げ、産婦人科常勤医も引き上げる事態となりました。一方で、岩手県医療局は平成15年2月18日に病院改革計画を公表し県立釜石病院は、釜石市、遠野市、大槌町、宮守村で構成されている「釜石保健医療圏」における広域基幹病院と位置づけられました。ほぼ同時に産婦人科医・小児科医複数体制となりました。ついに平成17年9月に県医療局と釜石市は釜石市民病院を段階的に縮小し、平成19年4月をめどに廃止、県立釜石病院に統合することに基本合意したと発表しました。市は約28億円の累積赤字を抱える病院事業から撤退することを決定しました。

住民反対運動・労働組合反対運動が激化

 統合の発表後、市民の署名運動・反対運動・市民病院を守る会などが結成されました。これに対し、市側は市民説明会や釜石地域保健医療協議会を開催し理解を求めました。

医師・看護師の異動はわずか

 今年4月に市民病院の脳外科医師1名、外科医師2名、看護師16人が県立病院へ異動しましたが、残りの13人の医師は異動を希望していません。実施計画書には統合によって両病院の医師を集約し、ひとつの診療科に複数の常勤医師が配置されることで、医師の負担が少なくなり、医師派遣元の大学側にとって、医師を派遣しやすい体制に変わるとありますが、今回の統合では慢性的な医師不足に悩む県立病院の統合に伴う医師確保はうまくいっていないのが現状です。

今後への自治体病院統合の展望

 地方では人口減少や医療費抑制による患者減少、臨床研修医制度の影響による産婦人科医・小児科医撤退から閉鎖・休診により自治体病院は存廃の岐路に立っています。今回紹介した岩手県立釜石病院と釜石市民病院の統廃合は、自治体病院の存続を模索したモデルケースと言えます。今回の統合は決して理想的にはされていないですが、少人数でも県内大学と県外大学の医師が一体化して診療できる体制は、地方での医師不足を解消しうる1つの方向性とも思われます。