日産婦医会報(平成17年12月)DPC(包括医療)について
医療対策委員会委員 中野 義宏
はじめに
日本における保険制度は出来高払い方式である国民皆保険制度を1961年以来つづけてきました。ところが高齢化や医療の高度化、患者意識の変化など処々の理由により医療費が膨らみ医療費抑制政策、医療の質管理を考えなければならなくなりました。そこで登場したのが日本独自の包括医療であるDPC(Diagnosis Procedure Combination)です。
平成15年4月から全国の特定機能病院等を対象にこのDPC を用いた包括支払い制度が開始されました。その後の見直しの中で、平成15年から民間病院に調査協力としてデータ提出を行うことになり、この中からDPC が実施可能な医療機関が手を挙げる方式が採用されました。民間病院を含めた全国62の医療機関が16年4月より順次開始され、現在144の病院がDPC に移行し、DPC 調査協力病院も145まで増えてきています。いまのところDPC は比較的大規模な病院を中心としていますが、いずれ中小の病院も参入することが予想されています。本稿では簡単にDPCの概略を述べさせていただくとともに今後の医業を取り巻く変化についても触れさせていただきたいと思います。DPC 概要
これまでの点数は、手術、投薬、検査といった診療行為を単純に足していく出来高点数という計算方法でした。これと異なり、投薬、処置、検査等の費用が包括された点数計算方式を、包括点数といいます。DPC では、診断群分類ごとに1日あたりの点数を設定し医療費を計算します。この点数には投薬、注射、一般的な検査、レントゲン、1,000点以下の処置が含まれています。出来高点数の場合、診療行為が多ければ多いほど医療費は高くなりますがDPC の場合、主病名である1つの診断群分類により点数が設定されているため、投薬や注射が多くても少なくても、診療点数が決まっています。DPC では1,727の入院理由、重症度、年齢、手術処置の有無、副傷病等で基礎疾患分類があります。患者さんが入院された場合、この診断群分類に該当するかどうかを判断し、入院点数が決まります。診断群分類に該当した場合包括点数となりますが、すべての診療行為が包括されるわけではなく、一部出来高払いとなるのが特徴です。医師の技術的な部分、例えば手術、内視鏡といった技術料については現行の出来高点数で計算します。出来高で計算されるものは主に、1,000点以上の処置、手術および手術に伴う医薬品・麻酔、指導管理料、検査(病理学的検査診断・判断料、心臓カテーテル検査、内視鏡検査、血液採取以外の診断穿刺・検体採取料)、リハビリとなり、患者さんの入院費の計算は,診断群分類による包括点数と出来高点数を合わせたものとなります。
DPC 導入の効果
DPC という共通プラットフォームの導入により、(1)診療の質の透明化、(2)診療の施設間比較ができるようになるといわれています。先日(10月31日)の朝日新聞に「医療費に1.5倍の差」と題して同じレベルの病気でも施設間で1.5倍の価格差があると取り上げられています。厚労省の報告では入院日数の開きがあるとの報告でとどまっていましたが、この報告は医療の質だけでなく価格においても施設間格差があることがはっきりしました。価格差の原因については触れていませんが、過剰診療や医療レベル(手術等の未成熟度)の可能性が示唆され、管理機関の必要性が述べられています。
また、大学病院などの現場ではコスト意識の向上が図られていると厚労省DPC 分科会の議事録等でも報告されています。医療現場にとっては厄介な制度ですが国全体にとっては現状として医療の質・コスト管理が急務となっているためやむを得ないともいえます。おわりに
今後、DPC の普及と成熟により医療の質、コストの管理が一層進むことが予想されます。現状では高度医療機関、大病院が中心ですが、いずれこの流れは小規模施設やクリニックへも浸透するのではないでしょうか。情報化時代に突入し病院の良し悪しが広く世間に評価される時代となりました。こうした流れに遅れることなく取り組むことが必要かもしれません。