日産婦医会報(平成18年02月)

助産科 -産科医療の新しい方向性-

兵庫県 佐野病院 三浦 徹


はじめに

 最近、院内助産院という名称がよく使用されているが、病院内に独立した別組織を設立することは管理上できない。したがって、院内助産院という呼称は適切ではないことを指摘しておきたい。当院では1997年、院内助産システム(Midwife care system=MCS)を作り、2003年には、このシステムを診療技術部(薬剤、検査等)に位置づけした上で、助産科と改称し現在に至っている。

助産科誕生の背景

 産科医療、特に分娩管理について振り返ってみると、安全性を追求するあまり、技術主義的な出産にこだわり続けてきたことに気付いた。約18年前のことである。時を同じくして、開業を夢み、助産師本来の活動がしたいという、Midwife spirits に溢れた二人の助産師と出会い、母子の自然に産む力、生きる力を引出し、産婦主体の分娩管理を行いたいとの想いが助産科誕生の背景である。

助産科とは

  1. 病院施設内で助産師が主となり、外来妊婦健診、分娩、産褥管理、育児相談という組織的なケアを行う。
  2. 日本に古くからある助産院/自宅でのアットホームな「お産」の良さと、医療設備の整った病院内での安全性の高い「分娩」という両者の良さを兼ね備えたシステム。
  3. 当院では医師管理システム(Doctor care system=DCS)とこの助産科を妊婦の希望選択制としている。
  4. 妊婦健診は予約制で、一人、45分。夫、家族にはできるだけ同伴してもらう。
  5. 分娩には助産師、二人が必ず立会う。分娩はフリースタイル(異常時はすぐ医師が対応)。
  6. 産褥期には沐浴指導、育児指導等、各種記録、記載(証明書、母子手帳)、退院指導も行う。

助産科の実際

 妊婦は22-24週までは医師の健診を受ける。この時点で、当院の助産科利用基準(平成16年度厚生労働科学研究報告書、分担研究者岡本喜代子参照)に適合するlow risk妊婦で、助産科での分娩を強く希望する者を対象としている。なお、妊娠、分娩中に異常が発生すればDCS 管理とする。現在は予約制で一ヶ月15例に制限している。取り扱い分娩件数746例(1997.04-2004.8.31)、DCS 移行率5.9%(44例)、帝切率1.9%(14例)、会陰裂傷率54%、水中出産率27%(181例)、分娩平均所要時間、初産婦18時間
11分、経産婦7時間21分、平均出血量約351gr である。

医師管理システム(DCS)との比較

  1. 分娩時間は助産科が延長(初産婦)。
  2. 初産婦の会陰裂傷率/側切開率はDCS で圧倒的に高い(91% vs 54%)。
  3. 助産科の帝切率は低い(1.9%)。
  4. 臍帯血ガス分析値には差はなかった(PH7.32-7.37)。
  5. 分娩様式には大差がある(フリースタイル vs 仰臥位)。

助産科の展望

 助産科分娩は、十分チェックアップしたlow risk 妊婦に限っているため、安全性には問題はなくアメニティーも高い。妊産婦の立場になった管理に徹することができるので、助産師のアクティビティを高めることができる。正常産を助産師にゆだねることにより、産科医の過重労働をある程度軽減できるので、医師の産科医離れに歯止めをかける可能性がある。また、家族の絆をつちかうことができるアメニティーの高い環境を提供することにより、現代の社会問題であるいじめ、虐待の防止や、少子化対策の一助ともなり、産科医療の新しいひとつの方式であると考えている。

〈医療対策委員会から〉

 産婦人科医不足が深刻な社会問題となっております。今回は助産師のマンパワーを利用する試みとして助産科について三浦徹理事に解説していただきました。今後、助産師の医療の質を評価していくことも考慮したいと考えています。