日産婦医会報(平成18年07月)当院におけるセミオープンシステムの構築
日本産婦人科医会常務理事・産科婦人科舘出張佐藤病院 佐藤 仁
セミオープンシステムと当院の背景
産科オープン・セミオープンシステムについては、地域 医療レベルの向上、医療事故防止、周産期医療の安全性の観点から、日本産婦人科医会では順次推進すべきと考えている。しかしながら、大都市型のシステムであり、実施可能な距離に制約がある地方の中小都市・郡部に波及するのは難しい現状である。また、受け入れ施設についても医師数、労働環境、設備等に問題がある。当院は、群馬県高崎市の市街地に位置する病床数84床の産婦人科単科病院で、出産を中心に婦人科良性疾患、不妊症などを扱っており、年間の分娩数は1,600〜1,700件で地域の中核を担っている。高崎市の人口は32万人(平成18年3月現在)、当院の診療圏人口は近隣の市町村合わせて、約60万人程度である。診療圏内出生数は、高崎市の約2,300人と、近隣合わせて年間約5,000人程度。近年、近隣に分娩の取り扱いを中止する施設が増加してきており、分娩の集中化を来す状況が発生してきた。平成12年には年間1,400件程度であった分娩数が、17年は1,700件を超えるまでになってきた。徐々に外来健診人数が増加したことにより、外来混雑がひどくなったこともありセミオープンシステムの導入を考えた。
システム構築まで
平成14年より、システム導入の準備を始めた。1年目:連携必要事項の準備、2年目:連携医院への交渉、3年目:安定した連携システムの実行と目標を立て、3カ年計画でじっくり進めていく方針とした。まず1年目には、当院における健診内容の見直しを行った。連携医院と統一した健診内容を患者様に提供し、医療レベルを向上させることを目的に、細部にわたり健診内容を見直し、クリティカルパス形式の産科用自費カルテを作成した。連携医院にはこのパス形式のカルテを共通に使用していただくことにより、健診内容の精度を確保するようにした。次に、連携施設に対し患者様を紹介していただいた際のペイバックシステムが可能か検討するために、分娩にかかる諸経費(原価)を人件費から直接・間接経費まで算出し、多少のペイバックを可能にした。平成15年に入り医療連携室を立ち上げ、連携の具体的方法につき検討を重ねていった。紹介患者様をお待たせしないように、あらかじめカルテを準備作成するシステムを構築し、また患者情報の共有をスムーズに行うために、固定フォーマットの簡易紹介状を用意し、詳細は共通カルテをコピーして情報をやり取りするようにした。このことより連携医院における紹介状作成の負担を軽減することを可能にした。ほぼ準備が整った平成15年後半より、連携医院への交渉に入った。連携内容とペイバックについての契約書を準備し、副院長と連携室担当者で各連携医院を訪問、協力をお願いし、契約を結んだ。平成16年4月までに、高崎市内外8医院と連携契約を結び、現在に至っている。
システムの運用
実際の健診は、28週前後に1度当院で超音波スクリーニングを含む精密健診を行い、その後36週以降は当院での健診としている。マタニティークラスや、ソフロロジー教室などは希望により当院で参加していただいている。休日・夜間の緊急対応は当院で行っている。また、当院に初診された患者様にも、連携医院で健診を行っていただくよう積極的に逆紹介も勧めている。連携医院とのコミュニケーションは、年に2〜3回ほど連携医会を開催し、症例報告やシステムの改善などを協議し親睦を図っている。また連携医会報を定期的に発行し、当院からのお知らせや、お願い、実績報告などを行っている。セミオープンシステムの利用は、平成16年後半(7月〜12月)52件(分娩総数の6.2%)、平成17年前半(1月〜6月)52件(6.2%)、後半77件(9.0%)と、徐々にではあるが増加してきている。
まとめ
セミオープンシステムは積極的に進めるべきと考えるが、セミオープンを進める中核病院には分娩が集中し、リスクの少ない外来健診は医院となると、中核病院では、収入は変わらなくても病院としてはリスクが増加し、それを解消するための人件費が増加することが判明した。対費用効果を考えると、中核病院にメリットのあるシステムとは考えにくく、今後の問題としては、分娩費用の増額やリスクを分散・回避することを考えなくては、このシステムの発展はありえないと思われる。