日産婦医会報(平成18年08月)産婦人科医療提供体制改革への道筋
日本産科婦人科学会産婦人科医療提供体制検討委員会委員長
北里大学医学部産婦人科学教授 海野 信也
日産婦学会の産婦人科医療提供体制検討委員会(以下、 検討委員会)は、平成17年11月に産婦人科医師不足とそれ による地域医療提供体制の危機的状況に対応するために、 学会理事長の諮問委員会として設置された。その任務は、 20〜30年後の産婦人科医療体制についてのグランドデザイ ンを描くこと、そしてそれに至るロードマップを策定し、 喫緊課題への対策も検討するというものだが、状況の緊急 性から短期間でのとりまとめが強く求められた(日本小児 科学会の取り組みは約1年半先行していた。また政府は「医 師確保総合対策」、「小児科・産科医師確保が困難な地域に おける当面の対策について」という二つの報告書をまとめ ていた)。医療制度の問題は産婦人科医全体の問題であり、 検討委員会では、学会と医会双方から多くの先生にご参加 いただき、可能な限りオープンな議論を行うことにした。 本年4月の日産婦学会総会の際に、中間報告、緊急提言と いう形で、検討の内容を公表するところまでこぎつけ、現 時点では広く会員及び一般に意見を公募中である。
本稿では、中間報告の中の「産科医療圏」と「地域分娩 施設群」の考え方について、若干の補足を加えたい。
1)「産科医療圏」:
医療計画は二次医療圏ごとに検討さ れているが、産科の場合、二次医療圏単位では診療が完 結しないことが多く、次医療圏にこだわるのは実際的 でない。地域の産科医療の実情に合った医療圏の設定と それに基づいた、医療計画の策定が必要と考えられる。
2)「地域分娩施設群」:
(ア)分娩取扱施設の多様性をどう考えるか;分娩取扱は 大きなリスクを伴う。産科医療の安全性に対する社会 的要請は非常に大きい。分娩取扱施設の減少が社会問 題となっていても、医療安全を軽視するような対策や 議論は成立しない。今後制度設計を考える際には、医 療安全は前提事項とならざるを得ない。しかし、現実 には、多様で、安楽で利便性のある分娩を求める、こ れも非常に強い社会的要請がある。安全面を真剣に考 えているとは思えないような提案が一般からあるいは 専門家からも寄せられている。多様性への要請にどこ まで応えるべきか、また応えるべきでないかは、現時 点では結論を出すことが困難と言わざるを得ない。今、 分娩取扱施設が足りなくて困っている時に、これまで 認められてきた制度を否定してまで内輪もめをしてい る場合ではないのかもしれない。
(イ)情報公開の必要性;そこで出てきたアイディアが 「情報公開」であり「地域分娩施設のグループ化」と いう言葉だった。医療安全に関しては、地域分娩施設 のグループとして確保を目指す。施設の多様性を考え ると、すべて完璧というわけにはいかないだろうが、 それは実際の内容について情報公開することによっ て、理解してもらう。各施設は自施設の良い点ばかり でなく、限界についても公表しなければならない。そ の中で、現場では分娩取扱施設の競争と淘汰が起きる だろう。最終的判断は住民が行うことになる。しかし、 助産所に関しては医療機関内あるいは近接して存在し ていることを安全上最低限必要な条件と考えた。
(ウ)診療報酬上の評価を目指す;分娩取扱施設が診療報 酬上の評価を受ける際には、産科医療圏の中で果たす 役割を明確にすることが必要になる。地域の分娩取扱 施設がグループとして一定の医療安全基準を満たすこ と、そしてそのような施設群については、地域産科医 療への貢献に対して報酬上評価されることを目指す、 というのが中間報告における地域分娩施設群の考え方 である。単独の施設で基準を満たすことができれば、 単独でも全く問題はない。
中間報告・緊急提言等の内容については、日産婦学会HP を参照してください。ご意見を公募中です。最終報告は平 成18年度末を予定している。
〈医療対策委員会より〉
分娩を取り扱う施設・産科医の減 少に対する日本産科婦人科学会の取り組みを、海野信也北 里大教授より解説していただきました。