日産婦医会報(平成18年10月)

医会での情報伝達方法の検討周産期救急搬送におけるヘリコプターの活用について(1)

亀田総合病院産婦人科産科部長、周産期母子医療センタ(兼務)  鈴木 真


医療資源の集約化・重点化における問題点

 産科医師不足に伴い、医療資源の集約化、重点化が推進されている。この施行に際し、国民に不利益を与えないことがもっとも重要なことであり、そのためにいくつかの方策が必要と考えられる。ひとつは集約化に伴い遠くなる医療機関への通常受診時の交通手段の確保である。さらに問題となるのが緊急時の対応である。医療施設間の距離が徐々に離れていくことによる搬送時間の延長をいかに短縮するかは重大な問題である。これには搬送先をいかに早く決定するかということと同時に、どのような方法で搬送するかが問題となる。前者に対してはシステムの確立が必要であり、後者は救急車搬送を補う手段としてヘリコプターの活用が期待されている。

当院におけるヘリコプター母体搬送の実際

 亀田総合病院では平成17年4月より千葉県初の総合周産期母子医療センターとして運営を始め、8月からヘリコプターによる母体搬送を導入している。当センターの母体搬送の実態について述べると、センター開設前は安房、夷隅・長生という担当医療圏からの搬送が80%以上を占めていたが、オープン後は遠隔地からの搬送が増加して、2005年では遠隔地からの搬送数が約半数、本年半期では60%を超えている(図1)。ここで問題となることは、亀田総合病院が千葉県の南端にある鴨川市という交通の不便な地域にあることである。この現象は集約化に伴う搬送距離の遠隔化によく似ており、モデルとなると考えられる。実際、成田市からは直線距離では75Km 程度であるが、陸路では110Km あるため、救急車搬送では2時間を要する。一方、ヘリコプターは時速約200Km で運行できるので、23分で到着することになる(図1)。当院では以前より島嶼救急や米軍からのヘリコプター搬送は受け入れていたが、救急車搬送のできる地域からの受け入れは行っていなかった。今回、ヘリコプター搬送を導入したことにより搬送時間が短縮され、遠方で受け入れ施設が見つからない症例を積極的に受け入れることが可能となった(図2)。
周産期施設の集約化・重点化による患者さんへの負担を少なくするために、医療圏のみでなく、圏域を越えた搬送先施設の決定システムの構築と、それに伴い長距離搬送が生じた場合のヘリコプター搬送と救急車搬送の双方の効率的運用を早急に確立することが必要であると考える。

図1.主な地域の搬送方法と時間


 

図2.搬送元地域別搬送方法

医療対策委員会より

 10月号と11月号では、産科施設集約化に伴うヘリコプターの利用について鈴木真先生に解説をお願いしました。