日産婦医会報(平成18年11月)

医会での情報伝達方法の検討周産期救急搬送におけるヘリコプターの活用について(2)

亀田総合病院産婦人科産科部長、周産期母子医療センタ(兼務)  鈴木 真


 日本での救急ヘリコプターの運用はいまだ限定的である。諸外国の救急ヘリ配備の実態は、国土の差はあるもののドイツは78機、スイスでは13機で、ヘリ1機が半径50Km圏を担当し、ほぼ全国土をカバーして運用されている。これはドイツの救急法で「初期治療は、15分以内に医師が患者のもとへ駆けつけ、着手しなければならない」と15分以内に初期治療を開始できる体制が義務付けられており、ヘリコプターが約15分で飛行できる距離が50Kmだからである。一方、現在日本で救急搬送に使用できるヘリコプターにはドクターヘリ、消防防災ヘリ、島嶼救急に対応する海上保安庁ヘリと自衛隊ヘリなどがあるが、本来救急医療に使用されるべきドクターヘリは全国でわずか10機しか導入されていない。消防防災ヘリは全国69機とほとんどの都道府県に配備されているが(図1)、火災や救助、災害警戒、情報収集、資機材輸送などが主な目的であり、救急搬送に使用されることは少なく、1機あたりの年間救急出動回数はドクターヘリ約500回に対して、約30回である。しかし総務省は「ヘリコプターによる救急システムの推進について」の通達を平成12年に出しており、兵庫、岐阜、広島、埼玉などでは消防防災ヘリのドクターヘリ的運用が試みられており、ますますその活発な利用が勧められている。

 また、日本ではNPO 救急ヘリ病院ネットワーク(Emergency Medical Network of Helicopter and Hospital:HEM―Net 理事長国松孝次(元警察庁長官)) が救急ヘリの全国的な普及活動をしている。HEM―NET の活動は主として2つあり、救急ヘリの救命効果や経済効果などについて研究することと普及のための広報活動である。その成果として、第8次交通安全基本計画に「ドクターヘリ事業の推進」 が盛り込まれ、現在与党ドクターヘリワーキングチームが 「ドクターヘリ救急医療の提供に係る体制整備の促進に関する法案」の法制化に向けて議論を深めているところである。いま運用にあたりもっとも問題となっているのは、1機あたりの年間約2億円かかる運行費用である。日本では国と地方自治体が折半し、患者負担はなく全額税金で運用しているが、ドイツでは医療保険、スイスでは献金、米国メリーランド州では自動車登録税により運用されている。日本では財源がなく、普及が進んでいない状況であるが、 国民により良い医療を提供するためには、ヘリコプターによる救急医療体制は欠くことのできないものであり、これを整えるために財源をどうするかもう一度考え直す時期に来ていると思われる。