日産婦医会報(平成19年06月)神奈川県内の産科医療機関における分娩取り扱い数調査結果と将来予測(第2回調査)の概要
前医療対策委員会副委員長 小関聡(神奈川県産科婦人科医会)
はじめに
平成17年7月に神奈川県産科婦人科医会が行った第1回調査では、具体的な数字で将来の分娩取扱可能数を示したことで多方面での議論を呼び起こした。平成18年7月に第2回目の調査を行ったので、その調査の概略を報告する。
対象と方法
平成14年1月〜18年7月に分娩を取り扱った県内186施設に各年の分娩取扱数を尋ね、病院と診療所ごと、地域ごとに集計した。同時に今後の分娩取り扱い計画を、
イ) 5年以内に中止、
ロ) 5〜10年以内に中止、
ハ) 10年以上継続予定
のいずれかであるかを尋ねた。それをもとに、中止予定施設の平成17年実績分を平成17年のその地区の合計から差し引き、平成23年、28年における理論上の分娩取扱可能数を推定した。結果
〈この1年間で病院6施設が閉鎖〉
各施設の今後の計画に基づいて将来の取扱可能数を算出すると、平成23年は61,431件、28年は58,907件で、平成17年と比べそれぞれ5,888件、8,412件の減少であった。これを前回調査と比較すると、平成22年推定が65,468件に対し平成23年は4,037件の減少、平成27年推定が59,475件に対し、平成28年は568件の減少であった。平成22年〜23年の急激な減少のうち70%は病院分で、この1年間に病院の産科病棟閉鎖または閉鎖予定が6施設あったためである。診療所は開設者の年齢と後継者の有無で今後の継続を見通せるのに対し、病院の場合は医局人事に頼っているため、5年はおろか1年後の見通しも立たないことが示された。一方、10年後の取扱可能数の減少が、568件と小幅にとどまったのは、病院が上記理由で現状維持できると仮定した場合の数字を回答したことと、診療所の中で前回「中止」と回答したものの、「もう少し続けられそうだ」と中止時期を延長した施設がいくつかあったからである。診療所への支援は分娩取扱可能数を維持する上で有効な手段であることも示唆された。
〈2年にわたる調査で分かったこと〉
神奈川県南部の横須賀地区と横浜地区を例に挙げて2回の調査で分かったことを述べる。横須賀地区では平成16年の取り扱い実績が3,907件、平成17年が3,387件で520件の取り扱い数の減少があった。一方平成16年の出生数が3,845人、平成17年が3,640人で、205人の減少であった。里帰り(in、out それぞれ)や多胎、死産等の要因で分娩取り扱い数と出生数は一致しないが、毎年一定の比率でこれら里帰り等があると考え、前年との差で論ずれば、これらの要因は排除できる。したがって約300人が同地区から溢れ他地区で産んだ計算になる。
同地区に主に隣接する横浜南部地区の分娩取り扱い実績は、平成16年と17年の比較で13件しか減っていないのに対し、この地区の出生数は平成16年と17年の比較1年間に413人減少している。地区内の出生数が413人減ったのに分娩数は13件の減少にとどまったのはその差400人分他の地区からの流入があったからと考えられる。
横浜南部地区に主に接する横浜西部地区では2年間の比較で取り扱い数は727件の減。これに対し出生数は431人減で、差し引き約300人が他地区で分娩した計算になっている。この300人は前述の南部地区と次の北部地区に流れていると推測される。北部地区では分娩取り扱い実績は143件の減。出生数は672人の大幅減少である。その差約500人は、他地区からの越境分娩であると計算される。平成17年はこのように取り扱い施設の閉鎖による“分娩難民”は大幅に出生数が減少した他の地区に流れこむことにより、何とか救われたのである。おわりに
平成18年の神奈川県の出生数は平成17年に比べ2,500人増加している。にもかかわらず、自治体は自らに都合のよい調査結果のみを引き合いに出し、医療関係者、マスコミ、県民が声高に叫んでも、具体策が実行されていないのがこの1年間の状況である。今回2回目の神奈川県の調査結果が、分娩取り扱い施設と産科医の減少問題を国や自治体が改めてより危機感をもって取り組むことを再認識し真剣に取り組むことを望む次第である。