日産婦医会報(平成20年03月)出産育児一時金受領委任払い制度
〜 施行後一年「その現状と問題点」 〜
医療対策・有床診療所検討委員会委員 並木 龍一
はじめに
出産育児一時金の受領を医療機関に委任する「受領委任払い制度(受取代理制度)」が施行され約1年が経過した。 この制度の利点は、患者側には高額な分娩費用の退院時支払いの軽減、医療側には分娩費未払いの対策にあると思われる。その現状と問題点について考えてみる。
利用状況
日本産婦人科医会の平成19年5月の単月調査では、全国平均17.4%の利用率であった。最低5.9%から最高36.7% と地域間にかなりの格差があった。特徴として分娩数の多い都市部での利用率が低いことが挙げられた。現在、利用率はこの時点よりは上昇していると思われるが、さらに普及させる方策を考えなければならない。それには妊婦にこ の制度を周知させることが第一と考える。その方策のひとつとして各自治体に働きかけが必要になってくるだろう。
例) 母子健康手帳交付時に必ず説明を加えるなど。 妊婦だけではなく社会全体に、この制度があることを発信する必要もあると考える。患者側には明らかに有益な制度が、社会的に周知されれば少子化対策のひとつにもなる のではないだろうか。分娩費未払いに有効か?
秋田県支部内で、比較的分娩費未払いの多い施設の制度施行前、施行後での調査をした(秋田県では平成18年10月より制度施行開始)。
分娩数 未払い件数 未払い総額
平成17年 公的病院 200 10 1,983,980 円 私的病院 244 10 1,351,032 円 平成19年 公的病院 234 3 997,880 円 私的病院 247 0 0 円
利用率は公的病院29.1%、私的病院25.5%であった。平成19年、公的病院の未払い3件中2件は申請したが間に合 わなかった例、1件は申請が通らなかった例である。私的病院においては、平成17年10件あった未払いが0となった。 公的病院の3件に制度が適用されていれば、実質2病院の分娩費未払いはほぼ無くなったことになり、明らかに有効だったと思われる。この2病院には医療費支払いの相談窓 口があり、分娩費に関しては積極的に受領委任払い制度を 勧めていた。これは、この制度を有効的に利用し実績を示した良い例だと思われる。この制度の問題点
分娩費未払いに有効であった例を示したが、この制度には問題点もある。以下にその問題点を挙げてみる。
- この制度が未だに周知されていない。
- 手続きが煩雑である(特に社保は手続きが統一されていない)。
- 振り込みが遅い。
- この制度の適応にならない場合がある。 例)国保の保険料滞納者、36週未満の早産など
- この制度がありながら、出産育児一時金の前借り制度が 未だに残っている。
これだけではなく、この制度には多々問題点があるが、 現状ではすべての解決策は見えてこない。しかし自治体によっては、前借り制度を廃止するなどの方策を立てている場合もあり、このようなことから全国的に統一を図るのが、 解決策のひとつと考えられる。
おわりに
以上、この制度の現状と問題点を挙げてみた。当然、この制度の普及だけでは分娩費未払いが解決するとは思われ ない。未払いの多い飛び込み分娩などは、この制度以前の問題である。これには妊婦健診の公費補助の問題も関わってくるだろう。秋田県支部では、妊婦健診の公費補助の増 加により、健診寡受診妊婦の減少、飛び込み分娩の減少という効果をもたらした。以上、「受領委任払い制度」の普及には、更に検討を重ねていく必要性があり、各医会会員もこの制度の周知に努めていただきたい。