日産婦医会報(平成20年05月)産科医師不足医学生たちは今
横浜市大医学部、滋賀医大の学生調査より医療対策・有床診療所検討委員会委員長 小関 聡
はじめに
医師不足、とりわけ産科医不足が声高に叫ばれる中、医学生たちが無関心でいるはずがない。横浜市大医学部、滋賀医大の学生が、調査を行ったので紹介する。
横浜市立大学医学部
平成19年11月の医学祭でシンポジウムに先立ち、卒業後 の志望動向、産婦人科医療の現状に対する認識などを医学部1〜6年の361人を対象にアンケート調査を行った(学内の回答者は307人で回答率は85%)。アンケートは他大学にも呼びかけ、4年生12人と5年生1人が含まれる。
調査の時点までに、産婦人科医になろうと一度は考えた ことがあると答えた学生は、1年20%、2年17%、3年25%、 4年37%、5年32%、6年47%で、2年生以後学年が上がるにつれて増加する傾向が見られた。しかし、現在も産婦人科を志望し続けているかとなると、第3志望まで含めても、1年15%、2年5%、3年13%、4年15%、5年18%、 6年23%であった。さらに第1志望で見ると、1年5.6% 3人、2年0%、3年5.0%3人、4年3.6%2人、5年7.5% 3人、6年6.4%3人で4年以上は全員女性だった。一度は希望しながらも途中で変更する理由としては、他科への興味が強まった、勤務がハードで身がもたない、訴訟リスクが高い、が挙げられた。
福島事件を知っているかの問いに対しては、1年59%、 2年52%、3年69%、4年94%、5年76%、6年86%であった。4年生は医学教育の授業で取り上げられたため、高い数字を示した。また福島事件に対する感想は、5年、6年で「冗談じゃない」という回答が「嫌だけど仕方がない」 を上回ったが4年以下では逆転しており、臨床実習に入ったことで訴訟をより意識するようになることが示された。
マスコミが用いる「たらい回し」については、医師不足の影響、訴訟への恐怖が生み出した状況で、受け入れ拒否をした病院だけが悪いという報道はおかしいとする意見、 やむなく断っているのを拒否と表現するのはおかしい、健診を受けなかった側にも問題はあるとする声もあった。 医師不足の実感は1〜4年では25%が、5・6年では78% がありと答えた。その理由として1〜4年では「待ち時間が長かった」など患者側からの視点が、5・6年では「実習 中医師の多忙さを見て」といった医療側の見方が多かった。
(%)
1年 2年 3年 4年 5年 6年 産婦人科医になろうと一度は考えた ことがある 20 17 25 37 32 47 現在も産婦人科を志望し続けているか(含・第三志望まで) 15 5 13 15 18 23 現在も産婦人科を志望し続けているか(第一志望) 5.6 0 5.0 3.6 7.5 6.4 福島事件を知っているか 59 52 69 94 76 86 滋賀医科大学
「滋賀県の産科医療に対する意識調査」として、医学生、 研修医、産科医、県民を対象に、横浜市大生とは異なる視点で分析した。ここでは医学生の部分を中心に取り上げる。
対象は、1〜6年598人で回答数394人(回答率66%)であった。将来の進路として産科医に是非なりたい・なってもよいが18%、できればなりたくない・絶対なりたくない が54%であった。これは学年に関わらず大きな変化はなかった。研修医になると、なりたい11%、なりたくない82% と大きく変化したが、回答率が1年目50%、2年目32%と低くなっている。なりたい理由(複数回答)は、やりがい がある60%、興味がある55%、女性に向いている、使命感 と続く。なりたくない理由としては、興味がない56%、激務と訴訟リスク47%、報道をみてが20%であり、安月給は5%であった。まとめ
本稿執筆中の3月15日、日産婦学会神奈川地方部会が開催され、横浜市大生が話題提供という形で調査結果を発表した。内容は昨年の医学祭と同じものであったが、その発表ぶりや質問の受け答えは堂々たるものであった。一方、 滋賀医大生の調査結果も地元の新聞に取り上げられたとのことで、かなり熱心に取り組んでいるとうかがわれる。
産婦人科を専攻しやすい環境作りのために、給与体系の改善や無過失補償制度の整備など様々な策が練られているが、医学生の側としては、学生自身が問題意識を高く持ってこのように産婦人科の実情と将来を考えることが重要と思 われる。調査に携わった数人の横浜市大生らに聞いたところ、この取り組みを行う前は将来の選択肢として産婦人科 もあるかなという程度であったものが、はっきりと決めましたと答えた。一人でも多くの学生が、産科医不足問題に関して、我々と意識を共有し、一緒に模索していくことが、 問題解決の第一歩になるのではないかと感じさせられた。