日産婦医会報(平成20年10月号)

平成20年度公費負担妊婦検診の各支部実態調査結果と今後

日本産婦人科医会常務理事 可世木 成明


 厚生労働省が「妊婦健康診査の公費負担の望ましいあり方について」(平成19年1月16日)の中で公費負担の妊婦健診をできれば14回、最低5回と通知した。医療対策部では平成19年4月と平成20年4月の2回、各支部の実態調査を行った。本年度の調査結果は既に各支部にお送りし、7月9日には日本記者クラブにおける記者懇談会においても報告した。以下にその概要を記すが、誌面の都合で詳細な数字や図表は割愛し、医会報平成21年1月の「医療と医業特集号」に譲る。

公費負担妊婦健診回数(市町村単位)

 公費負担回数の最頻値は、昨年は2回であったが本年は5回になった。5回以上実施している市町村は昨年17.1%であったが、本年は90.9%と増加した。47支部中29支部(61.7%)が全県下で5回以上実施している。集計時点で回数の少なかった地域も、補正予算で公費負担回数を増加させつつある。
 優良企業を有する地方自治体が比較的財政豊かであり、回数の多い傾向がある。一方、地方のさほど豊かではないと思われる地域でも回数が多いところがある。人口が少なく出産数が少ないので補助の回数を多くできることもあろうが、何より少子化対策として熱意を込めて取り組んでいることが考えられる。

都道府県別、ブロック別に見た妊婦健診回数の格差

 北陸、近畿、九州地方で負担回数の少ない市町村が多い。一方、東北、関東、東海地方では、負担回数が多いように見うけられる。
 東北ブロックでは6回以上が50%、10回以上が32%を占めた。福島はほとんどの市町村が6〜15回であり、秋田はほとんどの市町村が6〜9回となっている。
 次いで回数の多いのは、中国、近畿、東海であった。
 関東、東北ブロックでは神奈川を除いて回数の少ない市町村はほとんどない。東京、愛知では全地区が5回以上であり、10回以上の市町村も多くみられる。北陸ブロックでは回数の多い市町村もあるが、回数の少ない地区がやや多い。近畿ブロックは、滋賀、兵庫では回数が多いが、その他の県では4回以下の市町村数が44%を占めていた。九州、四国では、6回以上施行している市町村がほとんど無く、特に福岡、宮崎、香川で4回以下の市町村が多い。

妊婦健診の委託単価

 厚労省が上記の通知で示した必要最低とする健康診査回数と検査項目に、学会/医会のガイドライン産科編2008に記載されている超音波検査を加えて、それぞれの検査に与えられている保険点数を1点10円として算定すると、第1回の17,370円から第5回の11,540円、5回で計61,940円となる。しかし今回の調査結果では5回総額平均は29,667円であった。現状では全額補助とは言えない内容であることを認識する必要がある。
 安心のできる良質な妊娠管理のためには妊婦健診14回のうち、少なくとも5回については上記に述べた検査内容が望まれる。助産所においても妊健公費負担が望まれるが、検査項目は助産所で行えないものもある。したがって助産所では上記の5回に相当する健診は嘱託医療機関に依頼し、日頃から緊密な連携を構築するべきであろう。医政発第0330061号で示されている「分娩における医師、助産師、看護師等の役割分担と連携について」に基づいた妊健システム構築にあたるべきである。

公費負担妊婦健診の今後

 8月22日、舛添厚生労働相は記者会見で、少子化対策として、妊婦健診費用を全額公費負担とするほか、出産費用を全額給付する仕組みを検討し、平成21年度予算に盛り込みたいと述べた。現在、国は5回相当分を地方交付税で措置しているがこれを14回分に拡大する方針という。回数の増加については日産婦医会の要望が実現しつつあるが、委託単価を安く設定したものを「無料券」とされる危険性をはらんでいる。あくまでも「補助券」として安全な産科医療の充実を目指したい。今後の課題は区市町村における格差を無くすよう行政に働きかけて、安心のできる妊婦健康診査の実施を望みたい。