日産婦医会報(平成21年1月号)

大阪府における産婦人科医療資源の偏在 

日本産婦人科医会 医療対策・有床診療所検討委員会委員 大賀 祐造


 最近、東京で周産期の緊急事態に関する対応の乱れが一度ならず二度までも報道された。日本で最高のレベルの医療提供体制にあると誰しもが信じている東京で起こったこの事態に、医療費抑制を叫ぶ政府要人は医師のモラルの欠如がその原因であると言う。近畿圏、特に医療提供体制が整っている地域の一つと言われている大阪府のそれを検証して、モラルが期待されている現場を再認識したい。

医会会員の年齢・性別・就業場所での動向

 会員数は30〜59歳の各年齢で平均24.7人であるが60歳を超えると急激に減りほとんど半分になる。また26〜29歳の会員数は各年齢で平均18.8人と初めから少ない。性別では40歳頃から男女比の逆転がみられ、26〜29歳では男性20人、女性55人となっている。
 分娩取り扱い病院では30〜34歳の医師数が最も多く、その後急激に少なくなる。一方分娩取り扱い有床診療所の医師は最年少でも35歳以上で、しかも35〜44歳の年代は28人しかいない。これは病院での減少分を下回るばかりか、同じ有床診療所の45〜54歳の年代(46人)に比べると産婦人科医の分娩離れ、老齢化が明らかである。

大阪府の医療提供体制に偏在はあるか?

 大阪府は11の二次医療圏に分けられ、面積は130〜440平方キロ、人口は65〜120万人とバラツキがある。二次医療圏当たりの分娩施設数は、人口10万対率でみると、一つの二次医療圏(中河内)を除いて1.7〜2.0(中河内は1.2)とほぼ等しい。つまり、すべての分娩取り扱い施設を合計すると人口80万人平均の二次医療圏に最低10施設は存在していることになる。しかし機能別に施設の配置をみると、昭和62年以来大阪府の救急体制を担ってきた産婦人科診療相互援助システム(OGCS)参加病院が多いところで8病院、少ないところで2病院と偏在がみられる。

医師・助産師の偏在

 病院、有床診療所を通じて常勤医の58.9%が分娩を取り扱い、非常勤医はその77.2%が分娩取り扱い施設で就業している。しかし、施設当たりの常勤医師数が24時間2人勤務体制をとりうる最低人数(8.4人)を超えているのは総合周産期母子医療センターのみであり、地域周産期母子医療センターとOGCS 参加病院がかろうじて非常勤医の応援を得てこれをクリアーしているに過ぎないのである。一方、一般病院、有床診療所は非常勤医を加えても、6.0人、3.2人と厳しい人員配置を余儀なくされている。小児科医、麻酔科医についても同様のことが言える。助産師については極端な病院集中がみられるほか、病院ではほとんどが常勤であり、非常勤者は有床診療所に集中している。

施設別分娩数と医師1人当たり分娩数の偏在

 平均分娩数をみると、総合センターは1,340件(帝王切開率26.2%)、地域センターは870件(同25.8%)、OGCS 加盟病院は546件(同20.5%)、一般病院は483件( 同17.2%)、有床診療所は350件(同9.9%)であった。つまり一般病院を含めた病院群がハイリスク分娩を引き受けていることが分かる。しかし分娩総数でみるとほとんどが国公立の前3者が36.8%、民間主体の後2者が63.2%の分娩を取り扱っている。二次医療圏別に医師1人当たりの分娩数をみると60件から120件と地域差がみられる。また医師1人当たりの年間分娩数は総合センターで125件、地域センターで79件、OGCS 参加病院で65件、一般病院で82件、有床診療所では110件であり、総合センター医師の過酷な勤務体制が明らかである。しかも多くの病院では同じ医師が婦人科業務も担当していることを忘れてはならない。

おわりに

 様々な偏在があっても、現在大阪府では新生児・周産期・乳児医療成績に地域差はない。少なくとも現在の体制下、大阪府下においてはどこでも、誰でも同等の産科医療を享受できているのである。しかし、数年先に垣間見える産科崩壊のシナリオに直面し現在の医療水準を維持できなくなった時、仕事に対する意欲を持ち続けることが可能であろうか。「衣食足りて礼節を知る」と言う。今回の分析では婦人科業務の負担について言及しなかったが、勤務医の労働条件など「正すべきは正す」ことを躊躇してはならない。