日産婦医会報(平成21年2月号)レセプトオンライン請求義務化について
高崎市医師会理事 有賀 長規 氏
レセプトオンライン請求とは
診療報酬の請求を紙のレセプトにかえて、電子媒体に収録したレセプトで提出する仕組みをレセプト電算処理システム(以下レセ電算)という。レセ電算で作成したレセプトデータを電子媒体ではなく、通信手段を使って受け渡す仕組みがオンライン請求である。未だ混同している向きも見受けられるのだが、これらといわゆる電子カルテとは直接関係はない。
義務化の法的背景とその概要
オンライン請求義務化の端緒は平成17年12月1日に政府・与党医療改革協議会によってとり纏められた「医療制度改革大綱」にあり、これを受け厚生労働省は平成18年4月10日、省令第111号を公布、診療報酬の請求を「平成20年4月1日以降は、経過措置の期間に該当する場合を除き、電子情報処理組織を使用して行うものとする」とした。したがってオンライン請求は昨年4月から既に義務化されており、400床以上の病院以外の医療機関にとって、現在は「書面又は光ディスク等による請求を行うことができる」経過措置期間中ということである。経過措置の期限は、医科に関しては以下のように定められている。
400床未満でレセ電算の病院は21年3月31日
400床未満でレセ電算を行っていない病院、レセコンを使用している診療所は22年3月31日
レセコンを使用していない診療所は23年3月31日
レセプト枚数が極端に少ない診療所は25年3月31日までの厚生労働大臣が定める日(届出が必要)
義務化に伴う問題点とそれに対する日本医師会の対応
端的に言って、医療機関にとってオンライン化による恩恵は乏しく、費用負担は不当に重い。他にもセキュリティー確保、保険審査強化への懸念、データの目的外使用の問題等々懸念される事柄は枚挙にいとまがないと言って良い。
日本医師会は、現場の実態に合わない拙速なIT
化や、環境整備がなされないまま強引に義務化を推し進めることには断固反対のスタンスを取り、平成18年8月8日、「オンライン請求義務化に関する日医見解」を公表した。
その後目立った事態の進展はなく、昨年10月22日には、三師会会長の連名で、「レセプトオンライン請求の完全義務化撤廃を求める共同声明」が発表された。「このままレセプトオンライン請求の完全義務化が進められれば、地域に根ざして医療を担ってきた医療機関等を撤退に追い込み、地域医療崩壊に拍車をかけることは明らかである」として、「レセプトオンライン請求の完全義務化を撤廃すること」「レセプトオンライン請求は医療機関等の自主性に委ねること」の2点を求めている。
一方、昨年10月26日の日本医師会臨時代議員会において中川常任理事は、仮に手上げ方式の導入が不調に終わった場合の備えとして、次の5項目に絞って働きかけをしていることを明らかにした。
平成21年度の予算概算要求において、代行入力支援に必要な初期費用の手当てをすること。
少数該当要件を大幅に緩和すること。
代行請求業務の改善。
国保請求書、医療費助成制度などの書式を統一し電子化すること。
オンラインではなくレセプト電算処理を活用し電子媒体を医師会などが代行送信すること。
医療機関の備え
医療機関としては日医対厚労省の折衝の行方を見守るしかないが、客観的に見て義務化の撤廃が実現する可能性は極めて乏しい。では、現時点において医療機関はどんな心構えを持っていればよいのだろうか。
レセ電算からオンラインへの移行は技術的にも費用面においても比較的ハードルが低いのに対し、レセ電算化には多くの場合病名コードの変換という少々煩雑な作業を要し、少なくとも3カ月程度の期間が必要である。だから現にレセコンを使用している機関にあっては、実際に電子媒体で提出するか否かはさておき、レセ電算への対応までは早めにしておくことが望ましいであろう。一方、手書きレセプトの医療機関は代行請求の体制作りが今後どのように展開していくのかしっかりと見極める必要があるだろう。