日産婦医会報(平成21年12月号)

医療法人継承体験記

神奈川県横須賀市パクスレディースクリニック 大塚 尚之


はじめに

本年1月に、有床診療所を持つ医療法人を継承した。といっても、第一に非親族からの譲渡によるもの。第二に医療法人の継承であったこと。この二点において全国的にも極めて稀有なことであったので、体験談を紹介したい。

第1の課題<行政との調整>

医療法人の継承については、まず行政との協議(了承)が必要であった。保健所に出向き担当者との協議の中で、

  1. 法的には必要な手続を踏めば特に問題はないこと、

  2. 最もスムーズな方法はまず短期間であっても当医療法人の理事に就任し、理事長交代の方式を採れば行政サイドの認可は何も問題はないこと、

  3. もしこの方法が難しい場合は、県の担当部門の判断によるが、場合によっては医療審議会の了解を取り付けなければならないことがあること

が判明した。が幸いなことに、産科病床の減少が社会問題となっていた折、当該自治体の強い後押しもあり、数日後にはいくつかの条件付きながら支障ないとの連絡をもらった。

第2の課題<譲渡価格設定>

譲り受けるのが医療法人である。土地建物や医療機器については、ある程度価格設定のベースがあり、評価額が存在するので双方共に戸惑いは無かった。が、営業権についてはどう考えていいものか真に困惑した点であった。いろいろな方面に問い合わせをしたが、一般の企業とは異なり、標準的な基準もなく、前例も殆んどないことから、考え方の基礎すら見えてこなかった、がこのことについては、前理事長の好意により、リーズナブルな価格で決定をみた。

第3の課題<資金調達>

結論から話すとこれが最も高いハードルであった。当初新規の開業ではないので比較的安易に構えていた私は勇んで金融機関の門をたたいた。しかし蓋を開けてみると極めて困難な状況が待っていた。というのも有床診療所の譲受では無く、対象は医療法人である。医療法人の持ち物である土地建物は一切担保にならないとのことであった。すなわち全額担保無しの個人借り入れであった。金融機関の返答も芳しいものではなく、この時点で半ば挫折の感があった。はたして約1カ月の後、本当に奇跡的なことではあるが、融資了承の回答が返って来た(後で耳に入って来たのであるが、金融機関は医師会、議会筋、行政等各方面を広範囲に調査したとのこと)。またしても風が吹いた!!

第4の課題<スタッフ、システム、カルテ等の引き継ぎ>

医療法人の継承である。カルテ・調票類はすべて引き継ぎ、保管と共に様々なリクエストにはすべて当方で対応することにした。また、駐車場用の借地、リース物件もそのまま引き継いだ。スタッフも法人の職員である以上、継続が原則であるが、こちらは感情を持つ人格であるので、全員個別に面談しその意思確認作業を行った。結果、高齢、遠距離を理由に若干名退職になったが、9割方のスタッフは残留してくれることになった。待遇面、業務システムは現状引き継ぎとなった(後々、経費面ではかなりつらい面もあったが、診療面では大変有利に運んだ!)。建物に関しては、外来部門の改築、空調設備の入れ替え、内装の変更、病棟部門の一部改築で終了した。

変更手続き

病医院の継承には、その形態や継承の仕方によって必要な書類や監督官庁が異なる。以下に必要な官庁を挙げる。
 1) 保健所:施設や構造設備の概要等
 2) 地方厚生局:保険医の変更や名称、管理者等の変更
 3) 地方法務局:この部分が届出書類も多く最も複雑医療法人の名称や役員、理事長の変更等
 4) 社会保険事務所:保険医療機関の指定等
 5) 支払基金:医療機関名や振込み口座等国保、社保それぞれに必要
 6) 税務署:医療法人の名称や振込み口座の変更等
 7) 医師会:入会手続きや開業報告等
聴き慣れない言葉が多く、手続きも繁雑であるが基本的には住所地の各監督官庁に相談することが肝要である。

おわりに

継承後7カ月が経過し、諸般のことを思い出しながら記録した。繁雑かつ膨大な事項の処理が必要であった。コンサルタント会社、司法書士、会計士等の協力で何とか成就することができた。いくつもの幸運が重なった結果であると考えている。この体験がご参考になれば幸いである。