日産婦医会報(平成23年5月号)妊婦向けのサービス−コストとベネフィット−
前医療対策委員会委員 紀平 正道
医療はサービス業であり、どの医療機関でも患者獲得のための努力を行っている。それは、患者向けに紹介されることはあっても他の医療機関に公表されることはほとんどない。今回、当院の妊婦向けサービスについて、コストとベネフィットを含めて紹介したい。
【当院の規模】
当院は、三重県津市で月約65件の出産を扱う診療所である。開院から今年63年を迎え、これまで行ってきた種々の患者サービスの蓄積がある。また、10年前に15の温水プールとエアロビクススタジオを併設した。
【妊婦向けサービス】
託児サービス:外来受診中の利用は無料。それ以外は1人1時間600円。産後の美容院やお出かけ時に好評。
出産体験教室:月2回開催、無料。後期の妊婦を対象に入院から分娩までの流れを説明する。分娩室では分娩台を体験する。スタッフからみれば当たり前の光景だが、意外と妊婦さんにはお産の不安が減ると好評。ただし、出産と重なる時があるので時間の調整が難点。
骨盤ケア教室:月2回開催、無料。腰痛や恥骨痛は妊娠につきもの。助産師から、軽減のための注意、骨盤のゆがみのチェック、骨盤ベルトの紹介などあり。
父親教室:月2回開催、無料。妊婦ジャケットを着用し、妊娠中の大変さを夫も体験。赤ちゃんの抱き方、おむつの換え方などを指導。
沐浴指導:入院中、褥婦・家族に対し、各自の子で実技指導する。もちろん無料。開始時間は希望を聞いている。
胎教教室:20年以上続いている外部講師の持込み企画。赤ちゃんへのプレゼント作り、絵本の紹介など、毎月テーマが変わる。1人1回1,000円の参加費用が講師料になる。
ベビースリング講習会:販売業者が使用方法の講習を行い、販売も行う。2〜3カ月に1回開催。場所の提供のみ。
マタニティアクア・マタニティビクス・マタニティヨガ:1回1,000円前後。妊婦水泳は雑誌などで取り上げられることが少なくなり、参加者が減少したので中止した。プールでのマタニティビクスであるマタニティアクアは、水中は動きが遅くエアロビクスが苦手な人にも人気がある。
その他:ケーキバイキングを入院患者対象に週1回開催している。アロマセラピーやリフレクソロジーも行っていたが、講師の確保が困難なため中止した。イベント以外のサービスとして、出産時のインスタント写真、寝巻は持参不要、赤ちゃん用体重計の貸出(1週間1,000円)、超音波検査後のゲルの拭き取りには自動おしぼり機(本体84,000円、1枚当たり3.5円)を使用している。
【コスト・ベネフィット】
託児サービスは、NPO法人から月〜金1人の派遣で月約20万円の支出に対し、月100名程度の利用で収入は5〜8万円。エクササイズ関連のインストラクターは、他にスタジオを持つ会社に依頼。レッスンが月18回で講師料が月12万円程度。小さなプールでも水道光熱費・ボイラー費に月に20万円程度かかる。参加者の減る冬ほど重油代がかさむのが痛い。妊婦以外の一般会員の会費で少し補っているが、プール建設費の返済等を合わせると月100万円強の赤字である。宣伝費と割り切って考えている。ケーキバイキングは宣伝効果大である。ケーキ作りの得意な職員のお陰 でコストはあまりかからないが、20種類近いケーキを準備するのは大変な作業である。食事のバイキング形式も考えたが、入院患者が少ない時の効率の悪さから思いとどまった。通院患者の病院に対する評価や改善要望を52,500円で500名分のアンケート調査する会社があり、結果が患者サービスの改善に役立つ以外に、患者の声を口コミとしてネットに投稿してくれるので広告として有用と思われた。
【まとめ】
プールは経費がかさむので、自院でプールを持つ価値は低い。スタジオは、エクササイズだけでなく各種教室などにも利用可能であり、存在価値は高い。しかし、分娩室を探検する教室や父親教室、時間を希望できる沐浴指導など経費のかからないものでも妊婦の満足度は高いので、妊婦向けサービスとして有用と思われる。産科経営は妊婦のニーズに応じた様々な形態があるが、その一つとしてご参考になれば幸いです。