日産婦医会報(平成23年7月号)

神奈川県内の産科医療機関における分娩取扱い実態調査からの報告
 産科医は増加傾向に転じたが……

医療経営委員会委員長 小関 聡

はじめに

 安全なお産の確保は、まずは人材確保にある。特に重要なのは、産科医師の確保であることは言うまでもない。その数、神奈川県ではどうなっているのか。神奈川県産科婦人科医会は、平成17年以後毎年、県内の分娩を取り扱う全医療機関における分娩数と分娩に従事する医師数の調査を行い、分娩取扱い状況の実態把握と将来の取扱い可能数の予測、医師一人あたりの負荷とこれらの経時的変化を公表 し様々な角度から問題提起を行ってきた。さらに平成21年からは分娩に従事する医師数の男女別、年齢別調査も始めた。今回は毎年行っている現状報告と将来予測のほか、医師数の年齢分布から今後の分娩の安全性を検討する。

調査方法

 県内で当該年に1件でも分娩を取扱った産婦人科医療機関を対象に、平成17年より毎年1回(初回調査は平成14年に遡る)、各施設が前年に取扱った実績をもとに、今後の取扱い予定を「すでに中止または年内に中止」、「5年以内中止」、「5〜10年で中止」、「10年以上継続」と5年区切りで回答を求めた。中止と答えた施設の平成21年実績分を同年の県内実績総数から差し引くことにより、将来の取扱い可能数と施設数を予測した。また、分娩に従事する医師数 を年齢階級5歳区切りで男女別に集計した。結果を表1に示す。

結果と考察

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1.取扱い数と施設数の予測は、それぞれ平成27年66,735 件119施設、32年63,673件109施設で、さらに減少が予想された。2.毎年のことであるが、1〜1.2万人届出出生数の方が 多い。助産所、自宅分娩などを差し引き、他県から神奈川への里帰りを加え他県への帰省を差引いているので、実際には相当な数を他県に依存していることが分かる。

医師数は増加したが

 県内の分娩に従事する医師数は平成19年が最少の438名まで減少したが、平成21年からはようやく増加に転じた。 平成22年は前年比32名増と、関係者の努力が実り始めた。 これにより一人あたりの取扱い分娩数も減少傾向にある。 しかし、年齢階級5歳別、男女別の分布をみると、45歳以上の男性医師数の占める割合が非常に高いこと、35歳以下の年齢階級で女性医師の比率が高いことが分かる(図1)。 女性医師が今後一定の割合で出産・育児で休職、場合によっては退職、転科すること、現在指導層にある男性医師 が約15年後には相次いで引退することにより、産科医療は今回の比ではない医師不足に陥り、分娩の安全性が脅かされる状況になることが予想される。

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終わりに

 日本産科婦人科学会も年齢階級別、男女別の会員数の現状から同様の警告を発しているが、本会の調査は分娩に従事する医師に絞ってあるため、より切迫感のある結果であると言えよう。大震災の厳しい国家予算では、産婦人科の医 師確保に回らない可能性もあるが、引き続き重要性を訴えるとともに、我々もさらに自助努力をしなければならない。