日産婦医会報(平成23年10月号)

分娩を取り扱う有床診療所アンケート調査から

医療経営委員会委員(新潟県産婦人科医会会長) 徳永 昭輝

はじめに

 北海道と北陸ブロック以外の7ブロックでは分娩取り扱い施設数で有床診療所が病院より多く、総分娩件数の半数近くが有床診療所で行われている。平成22年12月にアンケート調査を実施した。【1,607施設中の804施設 (50%)が回答】

1.産科医療補償制度に関する現状認識〜約7割の施設が 問題点があると回答〜

 (1)保険料の使い方、(2)原因分析委員会の事例報告書に対するマスコミの取り扱い、(3)補償金が少ない、(4)訴訟が増加しないか、など。事例報告書[要約版]が医療機能評価 機構HP上にあるのを半数が知らない。

2.出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度につ いて(N=612)

 複数回答。7〜8割の施設が、(1)妊婦の経済的負担軽減、 (2)入院費の不払い防止に役立つ。64%が経済的影響があっ た。
 (1)48.7%が内部留保(預貯金)、(2)25.2%が取引銀行からの融資、(3)福祉医療機構からの融資や、医師会信用組合の融資で対応した施設は、6〜7%。
 平成23年4月1日から、受取代理制度の選択が可能となった。85%(680施設)が、(1)事務手数料;25.3%、(2)制度の説明と合意文書;23.4%、(3)専用請求書;22.2%、 (4)医療機関が発行する領収書;19.1%、(5)その他;9.9% などの問題点を挙げている。

3.有床診療所の現状分析

1)19床の施設は約2割(都市部24%、郊外18%、過疎地32%)で、10床以上が約77%【都市部66%、郊外78%、過疎地87%】、9床は約23%【都市部34%、郊外22%、過疎 地13%】。ベッド数が少なくても都市部では診療所の経営 が行われている。
2)院長の年齢(N=612)
50歳代;37%(都市部35%、郊外40%、過疎地25%)、60歳代;30%(都市部30%、郊外27%、過疎地31%)、40歳代;19%(都市部12%、郊外26%、過疎地25%)、70歳代13% (都市部20%、郊外6%、過疎地5%)、30歳代は1%。
3)抱えている問題は何か?

  1. 6割が問題を抱えている。i.分娩数の減少33.1%(N=612)、ii.将来は分娩数減少が危惧される64%(N= 381)、過疎地では約7割が将来の分娩数減少を危惧。

  2. 経営に占める収益と正常分娩の比率では、46%(N=612) が医業収益の50%以上を占めている。過疎地では分娩以外の医業収益が7割強。

  3. 6割以上が看護師不足。助産師不足は7割(N=612) で、立地場所別にみると都市部65%(N=292)、都市郊外 69%(N=266)、過疎地77%(N=35)と若干地域格差が見られた。

  4. いわゆる看護師の内診問題に関しても、14%(N=612) が問題があったと回答。

  5. 助産所の嘱託医師は9%(N=612)で、嘱託医として契約時に合意書・包括指示書を交わしていると73%(N= 51)が回答。

  6. 看護師の養成制度は改革が必要28%、看護学生実習の引 き受け施設28%、実習中の「トラブルがあった」3%、助産師の分娩実習の引き受け施設14%、実習中のトラブルについては2%があったと回答。特定看護師に関して67%が 必要ないと回答。

  7. 今後の経営に関して(N=848、複数回答)、継続できる が59%、外来のみで継続19%、いずれ廃院が21%。経営困 難な理由は(N=413)、後継者がいない28%、看護師問題 15%、採算が取れない21%で、身体的理由が31%と最も多かった。

終わりに

 有床診療所の経営を第三者(例えば開業を考えている勤務医)が引き受けられるような体制作りが必要であろう。次いで医業経営を継続していける収益が確保され る条件作りが望まれる。さらに有床診療所で働く助産師、 看護師を養成する仕組みが整備されることが不可欠であ る。有床診療所が存続していくために解決されなければな らない課題は多い。