日産婦医会報(平成24年4月号)神奈川県内の産科医療機関における分娩取扱い実態調査からの報告
医療経営委員会委員長(神奈川県産科婦人科医会医療対策部) 小関 聡
はじめに
神奈川県産科婦人科医会は、平成17年以後毎年、県内の分娩を取扱う全医療機関における分娩数と分娩に従事する医師数の調査を(平成21年からは男女別、年齢別調査も)行い、実態把握と将来の取扱い可能数の予測、医師一人あたりの負荷とこれらの経時的変化などを公表し、様々な角度から問題提起を行ってきた。今回は医師年齢分布から今後の産婦人科医師不足再来の危険性も論ずる。
調査方法
県内で当該年に1件でも分娩を取扱った産婦人科医療機関を対象に、平成17年より毎年1回(初回調査は平成14年に遡る)、各施設の前年の実績と、今後の取扱い予定を「すでに中止または本年中に中止」、「5年以内中止」、「5〜10年で中止」、「10年以上継続」と5年区切りで回答を求め、それをもとに将来の取扱い可能数と施設数を、それぞれ地域別、病院診療所別に予測した。結果を表1に(誌面の都合で各年合計のみ)、分娩に従事する医師数および年次変化を年齢階級5歳区切りで集計し図1に示す。
結果と考察
1 分娩数、施設数、医師数等の推移(表1)
平成22年を基準とした将来計画に基づく分娩取扱い可能数・施設数は、それぞれ平成28年66,964件119施設、33年63,341件107施設で、さらに減少が予想される。
初回将来予測は初回調査の前年の平成16年から始め、毎年行っている。同年を基準とした平成22年の予測値と実際の分娩取扱い数はそれぞれ65,468件と66,890件で、予測値よりも1,422件多く取扱うことができた。
平成22年と16年と比べると、取扱い分娩数が2,972件の減少、これに対し届出出生数が1,197件の減少で、取扱い分娩数の方が1,775件多めに減少している。それだけ県内で取り扱える分娩数が減ったことになり、県外への依存度が高まっている。毎年1万人以上届出出生数の方が多い。助産所、自宅分娩などを差し引き、また他県から神奈川への里帰りのin と他県へのout を差し引いた数であるので、実際にはそれ以上の分娩を他県に依存しているのだ。
2 年齢階級別男性医師数の年次変化(図1)
県内の分娩に従事する医師数は平成19年が最少の438名まで減少したが、平成21年からは増加に転じた(表1)。しかし、図1をみると、男性医師の40歳〜59歳のこの2年間の減少傾向が目立つ、これは分娩前線からの撤退が予想以上に早く進む可能性を示唆していると言えよう。
おわりに
昨年7月の本欄では、「現在指導者となっている多くの男性産科医師が約15年後には相次ぐ引退により、産科医師不足危機再来の危険性あり」と論じたが、今回の調査ではそれより早く、数年後に再来の兆しとも受け取れる結果が出た。全国的な傾向を調査し、早急な対策を講じる必要性 がある。