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○ B型肝炎母子感染防止対策の手引き

【医療機関向けパンフレット】

《 厚生省心身障書研究 ウイルス性肝疾患の母子感染防止に関する研究 》

 平成7年4月1日より、HBs抗原検査陽性の妊婦に対するHBe抗原検査、HBs抗原陽性の妊婦から出生した乳児に対するHBs抗原・抗体検査、抗HBs人免疫グロブリン(以下「HBIG」という。)及びB型肝炎ワクチン(以下「HBワクチン」という。)が健康保険法上の給付の対象として取り扱われたことに伴い、本研究班はB型肝炎母子感染防止対策について以下のような考え方を取りまとめた。

B型肝炎母子感染防止対策フローチャート

1 妊婦に対するマス・スクリーニングと児に対する予防措置の適応について

(1)児に対する予防措置の適応について

 これまでのB型肝炎母子感染防止事業は、HBs抗原陽性かつHBe抗原陽性の妊婦から出生した乳児を放置した場合、その感染率が100%、キャリア化率が80〜90%であることに鑑み、これを対象に、乳児のキャリア化防止を目的として行われてきた。しかし、妊婦がHBs抗原陽性ならばHBe抗原陰性であっても、肝細胞内にはHBウイルスが存在することを意味するものであり、またこれまでの研究により、HBs抗原陽性でHBe抗原陰性の妊婦から出生した乳児でも、その10%程度に一過性感染が起こり、急性肝炎や劇症肝炎が発生していることが明らかとなっている。
 したがって、劇症肝炎や急性肝炎等の発生を防止するため、従来のキャリア化阻止を目標とした、HBe抗原陽性の妊婦から出生した乳児に加えて、HBs抗原陽性、HBe抗原陰性の妊婦から出生した乳児をも対象としたB型肝炎母子感染防止を行う必要があると考えられる。

(2)妊婦に対するマス・スクリーニングについて

 妊婦に対するHBs抗原検査は、これまで同様、B型肝炎母子感染防止事業により行われるが、この結果陽性とされた者については、健康保険によりHBe抗原検査を必ず行い、母子感染の危険度を的確に把握するとともに妊婦の健康管理を行う。

(3)検査結果の判定について

 HBs抗原検査及びHBe抗原検査の結果については、陽性、陰性だけでなく、その判別がつきかねる結果(疑陽性)のでることは避けられない。HBs抗原検査の結果(この場合はRIA法又はEIA法なので結果は数値で示され、陰性と判断する境界の数値をカット・オフ値というが、この値は検査の条件によって変動する上、連続した文字の一点をもって明確に判別することが困難であることもおこりうる。)が疑陽性である場合は、陽性と同等に扱って以後の予防措置に進めることが望ましい。

2 新生児・乳児のHBs抗原検査について

 HBs抗原陽性の妊婦から出生した児に対してはHBs抗原検査を行うことになっているが、その時期及び意義は次のごとくである。

(1)HBs抗原検査の時期とその後の処置

 初回のHBs抗原検査は、おおむね生後1か月に行う。母親がHBe抗原陰性の場合には、この検査を省略することができる。
 検査でHBs抗原が陰性の場合には、その後、HBIG、HBワクチンの投与(予防措置)を行うが、陽性の場合には、その後の予防措置は断念せざるをえない。
 予防措置を断念する場合の対応については、「7その他」を参考にする。

(2)HBs抗原検査時期の意義

 HBウイルスの母子感染は通常分娩に際しておこるとされ、出生直後のHBIG注射によって防止できると考えられるが、まれに胎内感染が成立し、出生時又は出生後1か月以内にすでに児はHBs抗原陽性となっていることがある。この場合には予防措置は無効であるので、胎内感染が成立した場合(生後1か月のHBs抗原検査で陽性になった場合)には、B型肝炎母子感染防止対策の対象から除外し、保健指導を行う。
 従来、出生直後に臍帯血を用いた検査、生後2か月の乳児に対する検査を行っていたが、臍帯血については採取時に臍帯周囲に付着した母体血が混入する場合があるので、今後臍帯血の検査については行わず、生後1か月時の検査により判断することとする。また、生後1か月の検査結果をもとに、2回目のHBIG投与(生後2か月)の要否を決めることとなるので、従来行われていた生後2か月の検査は必ずしも必要としない。
 なお、母親がHBe抗原陰性の場合には、生後1か月までの乳児内のウイルス増殖が少なく、この時点では検査陰性となることが予想されるため、乳児に対するHBs抗原検査は医師の判断で省略することができる。

(3)生後6か月のHBs抗原・抗体検査

 生後6か月にHBs抗体検査を行い、HBIG、HBワクチンによる予防効果を確かめる。免疫が獲得できない場合、すなわち、抗体検査陰性又は低値の場合には抗原検査を行い、陰性の者に対して、その後必要に応じ、HBワクチンの追加接種を行う。

3 新生児・乳児へのHBIG投与について

 母子感染防止のためのHBIG投与は、出生直後と生後おおむね2か月(8〜9週)の2回実施される。

(1)HBIG投与の時期

ア 初回のHBIG投与
 初回のHBIG投与は、生後できるだけ早く、おそくとも48時間以内に行う。ただし、この期間内に行えなくとも、HBIGの用法及び用量では、新生児のB型肝炎予防のための初回注射時期は生後5日以内となっているので、この間に行う。
イ 第2回目のHBIG投与
 第2回目のHBIG投与は、母親がHBe抗原陽性の場合には必ず行うが、HBe抗原陰性の場合には、これを省略することができる。
 第2回目のHBIG投与を行う場合は、おおむね生後2か月とされているが、1回目のグロブリンの効果(児の血中の抗体持続)のあるうちに2回目が追加投与されないと感染予防に成功しないおそれがあるので、あまり遅れることは望ましくない。したがって、生後2か月(60日)をめどに投与するようにあらかじめ予定しておく。ただしこれより遅れることがあっても、あきらめることなく予防措置を継続することが望ましい。

(2)HBIG投与の方法

 HBIG投与の方法としては、用量は第1回目は0.5ml〜1.0mlとなっているが、体重等に問題がなければ通常1.0mlが適当である。この場合0.5mlずつ2回にわけて筋肉内注射することになっている。(注)
 第2回目のHBIG投与については、用量は体重1kg当たり0.16ml〜0.24mlとなっているが、新生児同様体重等に問題がなければ通常少なくとも1.0mlは投与したい。注射部位についての統一的見解はないが、上述の第1回目の筋注の考え方に準じて判断していただきたい。

(注)
 新生児に対する筋肉内注射部位(以下筋注と略記)は大腿前外側(上前腸骨棘と膝外骨を結ぶ線の中点付近で、これより内側〈脛側〉にはかたよらない)と臀筋(臀部の上外側4分の1)が使われているが、その選択に関しては以下のような考え方がある。
 新生児に対して筋注する場合は、筋肉の容積が大きいこと、神経・ 血管の損傷のおそれが少ないこと、注射に際し固定しやすいこと、清潔が保ちやすいこと等の理由から臀筋よりも大腿前外側を使用したほうがよい。
 一方、多くの医師が臀筋に筋注しており、筋注による重大な障害の報告はない。
 個々のケースにおける筋注部位の選択にあたっては、筋肉の容積等を考慮して決定すべきであるが、特に新生児にあっては筋肉の容積が大きい大腿前外側を選択することが望まれる。

4 HBワクチン投与について

 HBワクチンの投与は、通常、初回は生後2〜3か月、第2回は初回の1か月後、第3回は初回の3か月後、の3回である。

(1) 初回投与は、HBIG投与と同時に投与した場合でも十分に有効であり、両者を同時に投与することが実用的である。

(2)第2回、第3回のHBワクチン投与の間隔は上記のとおりであるが、この間隔が多少前後にずれても効果に大きな差は生じないと考えられる。
 ただし、あまり長引くことは、ワクチン効果の生じる(HBs抗体産生)のに時間がかかることにつながり、HBIGの効果の低下とあいまって感染防止の失敗になると困るのでなるべく避けたい。

(3)ワクチン投与方法は、用量は0.25mlずつで、皮下注射である(ワクチン使用説明書参照)。皮下注射なので注射部位については常用される部位で差し支えない。第2回目のHBIG投与と同時にHBワクチンを接種する場合は、HBワクチンとHBIGは別々の部位にそれぞれ注射し、決して両者を混合して注射してはならない。

(4)HBワクチンは沈降ワクチンであり、バイアルピンの底に付着して沈降しているため、使用にあたっては事前に十分に振ることが大切である。

(5)HBワクチンと他の予防j妾種との関係であるが、問題となりうるのは通常ポリオ生ワクチン(生後3月〜48月)とBCG(4歳に達するまでの間)である。ポリオ生ワクチンについては生後3か月に達して早々に接種予定となっている場合に限りHBワクチンの2回目、3回目と関わりが生じる。その場合は、HBワクチンをポリオ生ワクチン接種予定日より7日以上早く実施する(ポリオが先だと1か月の間隔をあけたくなるが、不活化ワクチンであるHBワクチンが先なら次の他ワクチンは7日以上間隔があけばよい)。

5 HBIG、HBワクチンの副作用について

 小児では、これまでほとんど副作用が報告されておらず、心配ないと考えられる。ただし、これらの注射後、偶然に無関係な疾患が発症したり発見されたりする可能性もあるので、まれな副作用を含めていわゆる事故の起こることを想定しておく必要がある。したがって、予防接種法施行規則に準拠して、注射前に十分な問診と診察を行うのが望ましい。
 HBIG、HBワクチンは予防接種法に基づく予防接種ではないので、同法による健康被害救済制度は適用されない。万一の事故に際しては、医薬品副作用被害救済制度が利用できる場合がある。
連絡先
 医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(略称:医薬品機構)
 〒100−0013  東京都千代田区霞が関3−3−2 新霞が関ビル9階
 電話:03−3506−9411
 http://www.pmda.go.jp/

  なお、事故が疑われるような事例が発生した場合にはまず都道府県市町村と十分連絡をとり、無用な誤解に基づくトラブルの防止につとめることが必要である。

6 母子感染予防措置終了後の対応

 生後6か月ころのHBs抗体検査により、HBs抗体が獲得されていれば予防措置は成功したものと考えてよい。もしHBs抗体陰性もしくは定値であれば、この時点で、HBs抗原検査を行い、陰性が確認されれば、B型肝炎ワクチンを追加接種(第4回目)し、さらに約1か月後に再度HBs抗原・抗体を検査する。ここで抗体獲得できていればよいが、なお陰性であれば再々度B型肝炎ワクチンを接種してもよい(第5回目)。これ以上の追跡及びB型肝炎ワクチンの接種については、ケース・バイ・ケースで担当医の判断によって行われるべきであろう。
 なお、これら追跡中にHBs抗原が陽性となることがあれば、その時点で予防措置は成功しなかったと判断し、以後のB型肝炎ワクチン接種は行わない。

7.その他

 対象児でありながら感染を予防できなかった小児はキャリアになる可能性が高い。また、場合によっては肝炎の発生をみることもある。
 このため、これらの児に対しては個別の保健指導(定期的な健康診断、肝機能検査及び日常生活上の心構え等)が必要であり、プライバシーの確保をふまえながらの適切な対応が望まれる。なお、キャリアであることが発見された妊婦あるいは母親に対しても同様の配慮が必要である。
 HBs抗原陽性となった児は、いつか肝機能異常を生ずる可能性が大きいが、たとえそのような場合でも重症になるまでは、ほとんど無症状である。したがってこのような児に対してはHBe抗原陽性の間は3か月に1回程度、HBs抗原、HBe抗原(もし陰性化したらHBe抗体)、GOT、GPTの検査を行い経過を観察する必要がある。なお、たとえHBe抗原陽性でも通常の生活で他人に感染させるおそれはほとんどないので無用な恐怖心から、特別扱いしない注意が必要である。もちろん、血液が他の児に直接触れたり、噛みついたりすることのないよう指導すべきであるが、その他の点では特別の制限を加えるべきではない。浴場、プールなどを介しての感染はおこらないと考えられている。また、予防措置を講じている児に対する母乳哺育は通常通りで差し支えない。

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