【第5回】16.産後の育児に向けた退院時の支援

*各項目推奨のレベルは以下の通りです。

  1. 科学的根拠があり、行うよう強く勧められる。
  2. 科学的根拠があり、行うよう勧められる。
  3. 科学的根拠はないが、行うよう勧められる。

**本ゼミナールは、厚生労働省班研究2011-2012年「母親が望む安全で満足な妊娠出産に関する全国調査―科学的
根拠に基づく快適で安全な妊娠出産のためのガイドラインの改訂-」(研究代表者:島田三恵子 大阪大学教授)に基
づいており、同研究班が発行した「科学的根拠に基づく快適で安全な妊娠出産のためのガイドラン(金原出版株式会社
2013年)」を参考にしてください。

 産後、母親が安心して子育てを行うには、産後も充実した医療サービスが提供されることが必要であり、それは児童虐待の防止にもつながります。こうしたことから、産婦健診制度が導入され、産後2回の健診に対し、公的補助が行われるようになりました。産婦健診では、妊婦の精神状態に対する検査として、EPDS(エジンバラ産後うつ病自己評価票)が行われています。そこで、産後の満足度に影響を与える事柄がどのようなことであるか、調査しました。その結果、母体の問題として、睡眠不足や疲労、育児への自信喪失、乳房トラブル、会陰創痛、出血に対する心配が、有意に満足度を低下させることがわかりました(図33)。

(図33)

また、児の問題として、泣くこと、皮膚トラブル、育児方法がこれでよいか確認を要したといったことが、満足度を低下させ、育児環境の問題として、家族の協力不足、育児相談の人や場がないことも満足度を低下させることがわかりました。そして、退院後相談して悩みが解決した者は、満足度が上昇しました(図34)。

(図34)

産後の相談で悩みが解決したと回答した者は約7割でした(図35)。

(図35)

調査結果と、文献システマティックレビューから、以下のRQと推奨が得られました。

RQ: 産後の育児に向けた退院時の支援は?

推奨:
 周産期医療機関から退院する際に、退院後の母親に良く起こる問題(睡眠不足による母親の疲労、母乳不足感、乳房のトラブル、児の皮膚のトラブル)に対して、適切なケアを、母親の心身の疲労を軽減できるように助言する。産後の母親が少しでも児の育て方に自信がもてるように、産後の母親に起こる問題を「夫や家族が理解し、育児に協力する」ように家族にも退院時に説明する。【C】

 退院後、育児の相談できる医療機関・助産所や子育ての地域資源(育児サークル、育児教室、NPO法人の相談事業、市町村の母子保健相談窓口・保健センター、市町村の新生児訪問事業、等)の最寄り窓口を紹介し、また退院後も引き続き「専門家に相談ができる」ように、退院時に紹介する。【C】

 虐待リスクの有無を確認し、該当する場合には、退院までに愛着を示す言動を確認する。「育児に自信がない」という母親では、初めての母親などに通常見られる育児不安の有無を確認する。特別に支援が必要と判断される場合は、居住する市町村に情報提供し、養育支援訪問事業などに繋げる。 【C】