14.日帰り腹腔鏡下手術①
子宮筋腫・子宮内膜症を初めとする多くの婦人科疾患は妊孕性を低下させる。生殖補助医療( Assisted reproductive technology: ART) が発達した現在も腹腔鏡下手術は妊孕性の回復に大きな役割を果たしている(1。)
腹腔鏡下手術は低侵襲性が大きな利点の1つである。開腹手術よりも入院期間が少なく、海外では近年日帰り腹腔鏡下手術の適応が拡大している。婦人科領域の腹腔鏡下子宮全摘術や腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術も一部の施設で日帰り手術が行なわれている(2。)一方国内ではまだ十分に進んでいない。杉山産婦人科丸の内は入院施設を有さない不妊診療専門クリニックとして2011年より不妊症例に特化した日帰り内視鏡下手術を導入した。
不妊症に対する手術は多岐にわたるが、本稿では日帰り腹腔鏡下手術にフォーカスしてその主な病態に対する適応や注意点について2回に亘って説明する。
1.細径腹腔鏡の使用
日帰り手術では疼痛を最小限にする必要があり、当院では細径腹腔鏡を使用している。(Karl Strorz Germany)3㎜の細径腹腔鏡を使用し臍下部にクローズド法でFirst Trocarを挿入し、左右下腹部にも3㎜のTrocarを2本挿入し、3ポートで手術を行なっている(図1。)
Strorz社の細径腹腔鏡は3㎜であっても十分な視野・画質が得られる。術中気腹圧6mmHgで通常の8‐10㎜Hgと比較し圧を低く維持することで気腹に伴う術後疼痛や皮下気腫は減少する。閉創は鉗子で密着させた創部に市販のハイドロコロイド被覆剤(キズパワーパッド・Johnson&Johnson USA)を貼付のみで、容易である。創の整容性にも優れており術後数か月経過すると創部が視認できないことも多い。術後疼痛は軽微であり、術当日の退院が可能である。
2.腹腔鏡検査
腹腔鏡の優れた拡大能を利用し骨盤内を詳細に観察することが可能である。細径腹腔鏡による腹腔鏡検査は侵襲も最小限であり日帰り手術に特に適している。子宮卵管造影(hysterosalpingography: HSG)で卵管に異常が疑われる症例や原因不明不妊症例が主な適応となる。
a)HSGで卵管に異常が疑われる症例
HSGは診断能に限界があり、腹腔鏡検査と比較すると卵管周囲癒着・卵管疎通性の所見の不一致例が少なくない。特にHSGは卵管周囲癒着に対する診断精度が感度0.65・特異度0.61 と高くない(3) ため、腹腔鏡で卵管周囲癒着を正確に評価する意義は高い。術後に自然妊娠が可能か、IVFが必要かを判断することも可能である。クラミジア性の癒着は比較的容易に剥離できるが、子宮内膜症性の癒着は強固な場合がある。
b)原因不明不妊
産婦人科内視鏡手術ガイドラインでは原因不明不妊に対する腹腔鏡検査の有用性が認められている。原因不明不妊に腹腔鏡検査を実施すると69‐87%に何らかの異常所見が認められた(4,5。) 特に卵管周囲癒着は34‐36%に認められた。また不妊症例では25‐50%に子宮内膜症を有し、腹腔鏡下の観察により初めて子宮内膜症を認めることも多い。R-AFS分類のⅠ・Ⅱ期の子宮内膜症に対して病巣除去や癒着剥離によって生児獲得率が上昇し、治療意義があることが示されている(6。)骨盤内を詳細に観察し内膜症病変を認めれば、くまなく電気メスによる焼灼を行なう(図2。)
3.卵巣子宮内膜症性嚢胞
卵巣子宮内膜症性嚢胞の手術適応は議論がある。術後にARTが必要な症例では、卵巣子宮内膜症性嚢胞に腹腔鏡下卵巣嚢胞摘出術を行なってもARTの成績向上は見られず、卵巣予備能が低下するという報告もある(7。)一方ART反復不成功症例でⅢ期・Ⅳ期の内膜症に対して腹腔鏡下内膜症病巣除去術によって術後に比較的高い妊娠率を得ている報告も複数見られている(8。)卵巣子宮内膜症性嚢胞を有する不妊症例においては、十分なインフォームドコンセントの上で、手術適応を慎重に検討する必要がある 。当院では卵巣予備能の低下を極力防ぐため、バソプレッシンの局注による出血の予防、最小限の凝固止血、正しい層の剥離などの工夫を行なっている(図3。)
また当院は細径腹腔鏡を使用しており、一定の大きさがある卵巣嚢胞の摘出においてTrocarからの摘出が難しい。そのためダグラス窩又は膀胱子宮窩を切開して摘出している。
引用文献
1森田峰人 太田邦明
生殖外科のすべて メディカ出版 2018年8月
2 Moawad G, Liu E, Song C, Fu AZ
PLoS One. 2017 Nov 30;12(11)
Movement to outpatient hysterectomy for benign indications in the United States, 2008-2014.
3 Hiroi H, Fujiwara T, Nakazawa M, Osuga Y, Momoeda M, Kugu K, Yano T, Tsutsumi O, Taketani Y: High incidence of tubal dysfunction is determined by laparoscopy in cases with positive Chlamydia trachomatis antibody despite negative finding in prior hysterosalpingography RMB 2007 March ;6:39–43
4 Nakagawa K, Ohgi S, Horikawa T, Kojima R, Ito M, Saito H.
J Obstet Gynaecol Res. 2007;33:665-70.
Laparoscopy should be strongly considered for women with unexplained infertility.
5 Corson SL, Cheng A, Gutmann JN.
J Am Assoc Gynecol Laparosc. 2000;7:317-24.
Laparoscopy in the “normal” infertile patient: a question revisited.
6 Duffy JM, Arambage K, Correa FJ, Olive D, Farquhar C, Garry R, Barlow DH, Jacobson TZ.
Laparoscopic surgery for endometriosis. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Apr 3;(4):
7 Hamdan M, Dunselman G, Li TC, Cheong Y.
The impact of endometrioma on IVF/ICSI outcomes: a systematic review and meta-analysis.Hum Reprod Update. 2015;21:809-25.
8 Soriano D, Adler I, Bouaziz J, Zolti M, Eisenberg VH, Goldenberg M, Seidman DS, Elizur SE.
Fertility outcome of laparoscopic treatment in patients with severe endometriosis and repeated in vitro fertilization failures. Fertil Steril. 2016 Oct;106(5):1264-1269.