第6回 オンライン診療、遠隔医療への日本産婦人科医会の取り組み

オンライン診療や遠隔医療の産科管理への応用
 これまでに、オンライン診療を行う上で必要な、モノ、コト、カネ、ヒトについて、主にLEP製剤を処方する症例をモデルとして紹介してきた。もちろん、診療報酬体系や現実の臨床での制約があり、“やりやすい”場面で使用していくことは大事であるが、今後の技術の進歩などによって、オンライン診療が対面診療の代替補完となりうる場面は増えていくと考えられる。また遠隔診断についてはこれまでにも超音波診断の支援などいろいろな試みが行われてきている。例えば一部の施設でしかできない先天性心疾患などを診断施設と遠方の治療施設で情報共有し事前にできる限り準備を進めるなどの利用がおこなわれており、通信速度その他の改善にともないより高度なことも可能となってきている。

日本産婦人科医会の遠隔医療、オンライン診療対応への取り組み
 このような背景の中、本会では平成30年9月に遠隔医療プロジェクト委員会を立ち上げ、実証研究を事業として行うことを目指して活動し、妊産婦遠隔診療に向けた家庭血圧の基準値策定に関する研究開発、胎児心拍数陣痛図ネットワーク化によるD to D遠隔医療の標準化と有効性に関する研究、遠隔CTG モニタによる在宅real time 胎児サポートシステム確立に向けた検証、ICTを活用した産科医師不足地域に対する妊産婦モニタリング支援CTGネットワーク、コールセンターと電子母子手帳を用いた妊産婦・子育て女性見守りによる継続可能な社会的支援の確立を軸に、大学とともに検討を進め、家庭血圧ならびに遠隔CTG モニタを用いた研究事業を開始した。さらに、コロナ禍を受けて、地域周産期基幹施設への遠隔CTG機器の無償貸与や、オンライン診療の仕組みを用いた産婦のメンタルヘルスケアなどの実証研究も開始した。本稿ではこの中から、1)妊婦自己装着による遠隔CTG モニタリングの実証研究、2)2020年2月の新型コロナ第3波の際に行った地域周産期基幹施設へのCTG貸出へのアンケート結果について紹介する。

1)大学病院6施設、日本産婦人科医会の一次医療機関7施設で、87例の妊婦にインターネットを利用して遠隔監視が可能なCTG(iCTG)を自宅で装着していただきその波形について分析を行った(方法は図1をご覧ください)。その結果全データ数:1024回 (1例あたり11.8±7.9回、40分間連続してデータを取得した回数をカウント)のうち、9割以上(36分以上)の時間で判読が可能なデータ数:921回 (89.9%)、連続する10分以上の判読が可能なデータ数:1023回(99.9%)と、自宅で自己装着を行っても十分に判読が行えることがわかった.また装着後の大多数の妊婦が自宅でのiCTG利用は容易であり、使用することで安心感を得ることができたと回答していた。この結果からは、将来的には遠隔地やパンデミックでの胎児監視のひとつのツールとしての可能性が示さた(第73回日本産科婦人科学会学術集会にて発表された内容の一部を埼玉医大 田丸俊輔准教授、亀井良政教授の許可を得て掲載)。
 なお、本実証研究については
      https://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/20200420.pdf
 本機器については
      https://melody.international/products-service/lineup.html
 をご覧いただきたい。

図1 埼玉医大 田丸 俊輔准教授より提供

2)日本産婦人科医会では、上述の実証研究で運用中の機器を、研究の端境期を利用してコロナウィルス陽性妊産婦を受け入れる地域の周産期基幹施設に、感染対策に役立てていただくよう2021 年 2 月- 3 月 31 日の間無償で貸し出し事業を行った。11施設(17施設中)からのアンケート結果を図2、図3に示す。感染症対策のみならずD to D支援、在宅での患者管理、地域ネットワーク構築など、幅広い領域での今後応用が期待できるという意見をいただいている。

 

図2

図3

終わりに
 はからずも昨年からのパンデミックにより遠隔医療は緊急避難、すなわち通常診療の代替補完や、感染症対策として、妊婦健診や不安解消のための支援などにも有効に利用できる可能性が示された。北海道大学からは遠隔で妊婦健診を行った臨床研究の結果も発表されている(J. Obstet. Gynaecol. Res. Vol. 46, No. 10: 1967–1971, October 2020)。
 前述のアンケートにおいても救急搬送中のモニタリングなどへ応用するなどの提案もあり、実証研究の第2段階としてその検証を開始したところである。胎児心拍数陣痛図の共同監視による地域全体の周産期予後改善(宮崎大学、埼玉医大を中心に研究遂行中)やスマートウオッチなどの普及を見据え、妊婦自宅血圧の基準値作成(埼玉医大を中心として研究遂行中)などについても今後成果を発表し、遠隔医療の産科診療への適切な導入や保険収載などに取り組んでいきたい。また、オンライン診療の仕組みを用いた産婦のメンタルヘルスケアについても、妊産婦の不安の軽減に有用であるとの結果も得られている。こちらについては、令和4年度 第7回母と子のメンタルヘルスフォーラムin埼玉(令和4年6月5日予定)で紹介される予定である。
 この遠隔診療の実証研究プロジェクトと相前後してパンデミックとなったため、遠隔医療の感染対策への有効性がクローズアップされているが、ハイリスク妊娠の増加や働き方改革、医師偏在、少子高齢化が進む中、安全安心な周産期医療体制の維持が困難となっている地域もある。産科診療においては、健診等でローリスクの妊婦からも突発的な重症例を生じうるという特性があり、離島へき地以外の都市部でも、産後のメンタルヘルスを含めた、周産期のネットワークは不可欠でありその構築にも生かせるものと考えている。さて、オンライン診療にしても、遠隔医療にしても、その診療行為を行うにあたっては、平時から一定程度のITスキルとリテラシーを持ち、デジタルな情報のやりとりになじんでおく必要がある。本会も2021年度より、e学会や日本産婦人科学会と同様、WEBベースで会務、会員情報、研修などの管理を開始すべく準備を開始した。みなさまにもぜひ日頃より取り組みを進めていただきたい。
 当初今回をもってこのゼミナールは了とする予定であったが、ご存知の通り、コロナ禍で行われた特例措置の恒久化についての議論が進行中で、この秋頃に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の改定が行われる予定である。しばらく休講としたのちそのご紹介を行って最終回とする予定である。