1. 今さら聞けない漢方診療を始めるコツ

しばらく産婦人科専門医をやっていると、様々な理由から「そろそろ大学や基幹病院での周産期や悪性腫瘍中心の診療から一般婦人科診療へ移りたいかな?」と考える時期に入る先生がチラホラ増えてきます。

しかし、女性医学領域は、何となくEBMよりも個別化医療が相対的に重視されていることもあり、病院勤務医にとっては取っつきにくいことばかりですが、その代表が漢方医療であります。東洋医学に興味がある先生は問題ありませんが、とりあえず産婦人科医として保険診療で最低限の漢方処方をしたい場合どうすればよいのか?自身の経験をもとに具体的な参考例を挙げてみたいと思います。

コツ1:産婦人科医師が記した著書を読みつつ、メーカー主催のセミナーに参加する

個人的なお勧めは、「女性診療科医のための漢方医学マニュアル」改訂第2版(2008/9、写真はAmazonより引用)をとりあえず、パラパラでも読んでみましょう。著者の後山先生は元大学病院勤務の産婦人科医ですので、病院勤務の先生方でも抵抗なく読めると思います。

その上で、メーカー主催(費用は安いですが、多くの講師は非産婦人科医)の興味のあるセミナーに参加すると、無理なく始められます。

コツ2:まずは婦人科三大漢方薬を自分の外来患者さんにとりあえず勧めてみる

漢方診療は、随証治療(診察で証を決めて処方内容を決める)が基本であることを御存知の先生は多いとは思いますが、とりあえず器質的疾患を除外している間(次の検査結果説明の再診日までの2週間程度でも)に自分の思いついた漢方薬を勧めてみましょう。勧めてみることは問診の一つであり、過去に漢方が効かなかった患者さん(初心者は手を出さない)や、服薬と言えば錠剤やカプセル剤を屯服程度にしか服用できない患者さんを除外できます。

そんないい加減でよいのか!と思われるかもしれませんが、全く根拠がない訳ではありません。更年期症状を訴える患者さんに婦人科三大漢方薬(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸)を無作為に投与したら、いずれの方剤(薬剤)・症状においても高い奏効率であった報告があります(更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較- 産婦人科漢方研究のあゆみ23, 35-42, 2006)。個人的に、この論文が示した凄いと思う点とは、当時多数例を対象とした無作為比較試験方法を漢方臨床研究に採り入れたことだけでなく、「漢方が効く患者さんでは、どの種類の漢方薬を服用しても、ある程度は、どの症状にも効く」という臨床経験に基づく知見を証明したことにあります。慣れて興味が出てくると、普段腹部を診ている産婦人科医なら腹診は容易です。

コツ3:漢方用語、読み方に慣れる

皆さんは、以下の写真の読み方は御存知でしょうか?

荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)という名前の漢方製剤、金匱要略(きんきようりゃく)という漢方の古典です。様々な漢方用語がありますが、読み方にさえ慣れると多くの概念の理解は容易です。漢方だけでなく医学用語は、意外と誤った読み方をされていることが多いので、漢方を勉強する際に少し意識すると興味がひろがります。

「音訳の部屋」という個人のサイト(https://hiramatu-hifuka.com/onyak/onyindx.html

がとてもよくできていますので、診療の合間にでも御覧になられると参考になります。