10.どこにも書かれていないエストロゲン製剤の力価比は?
産婦人科医師の皆さんは、以下のような質問を他診療科や研修医の先生から度々質問を受けるのではないでしょうか?
・「OC・LEPとHRTとでは何が違うのでしょうか?」
「同じエストロゲン・プロゲスチン合剤でも量が違うのだから、対応も違うんだよ」と、面倒なので何となく答えていることが多いと思いますが、具体的にエストロゲンの力価がどれくらい違うのかを、明確な根拠をもって回答できる先生も情報も存在しないと思います(あれば教えてください)。
他の薬剤と比較して、その理由を考えてみます。
癌性疼痛緩和に用いられるオピオイド製剤の場合、オピオイドスイッチング(薬剤の種類を変えて疼痛改善を図る)という概念があるので、力価の比較情報が豊富です。
経口・貼付剤(mg)なら、
ヒドロモルフィン6 = モルヒネ30 = オキシコドン20 = フェントス®1 = デュロテップ®2.1 = ワンデュロ®0.84 = トラマドール150
注射剤(mg)なら、
ヒドロモルフィン2.5 = モルヒネ20 = オキシコドン25 = フェンタニル0.4
このような換算表があると、臨床では大変便利です。
それでは、ステロイド(グルココルチコイド)製剤ではどうでしょうか?
抗炎症作用を指標に力価比が下記のようになっていますが、多少意見の違いによる幅があるようです。
経口(mg)なら、
コルチゾン25 = ヒドロコルチゾン20 = プレドニゾロン5 = メチルプレドニゾロン4 = トリアムシノロン4 = デキサメタゾン0.5 = ベタメタゾン0.5
注射剤は、経口剤の1割増の量で等価のようです。
ステロイド製剤は、種類によって半減期や各ステロイドホルモン受容体との結合親和性も異なりますし、作用は体内の各組織で異なり多岐にわたりますので、オピオイド製剤よりは複雑となります。
さて、ステロイドホルモンの一種であるエストロゲンはどの作用を指標に力価を比較すればよいでしょうか?
「血中濃度を測定すればいいじゃない!」と単純に思いつかれるかもしれませんが、例えばエストラジオール製剤同士であれば可能かもしれません。しかし、血中濃度を測定できるのは、生体中に存在する様々なエストロゲンのうち、一部を個々に測定しているだけです。加えて、経口剤だけでなく貼付剤やゲル製剤もあります。特にエストロゲン含有注射剤は他の性ホルモンも含有している影響もあり、比較が困難です。
よって、子宮内膜厚や血栓塞栓症リスクなど、様々な臨床指標が候補として考えられますが、どれも結局は大雑把な指標としかいえません。
これらより、エストロゲン製剤の力価比較の情報に乏しい背景があるなかでも、徳島大学安井敏之先生の総説(日産婦誌65巻9号)内容が最も参考になります。これに加えて、処方経験による印象等から個人的に推定する力価比は、
すなわち、
HRT:LEP ≒ 1:4~8
超低用量ピル:低用量ピル:中用量ピル = 20:30:50 (EEの含有量 ug/錠)です。
異なる物質での力価比較は不正確かもしれませんが、そんなに外れてはいないと思いますので、大まかな参考値としてお考えください。