15. ステップアップ3(有害な一過性徐脈の出現1)
緩やかに発症した低酸素状態が、徐々に強くなり胎児低酸素血症に移行する。胎児はセンサーと自律神経系を駆使し、我々にメッセージを送る。はじめは小さな声で、そして大きな声で。
1.低酸素状態、有害な一過性徐脈の出現
1)症例1(図1)
26歳初産婦、販売員。妊娠39週、分娩第1期、子宮口4cm時点のCTGである。LDRで管理中、一旦トイレに行って戻った際、再装着したものである。トイレに行く前のモニターでは、胎児の健常性が確認されていた。
何かが起こり始めているが、分かるであろうか。胎児の声は、あなたに届くであろうか。
2)判読(図2)
心拍数基線は155bpmの正常脈、基線細変動は7-9bpmで中等度。はじめに遷延一過性徐脈が出現している。子宮収縮に関わらず急速な心拍数の上下動が認められ、圧変化に起因すると推察される。CTGの開始直後に、母体の体位変換に伴う低血圧等が起こり、一過性徐脈が出現することがある。また、トイレにいる間に胎児の位置が変化し、臍帯圧迫が起こったのかもしれない。
問題はその後の繰り返す遅発一過性徐脈である。子宮収縮の最強点に遅れて心拍数の最下点があり、4つの特徴を兼ね備えている。心拍数の低下はおよそ15bpmで軽度と判読できる。基線細変動は保たれ、酸血症には至っていないものの、胎児は、低酸素血症に対して、化学受容器や自律神経機能を駆使し、危機を訴えているのである。
この時点で、助産師は医師に連絡し、立会いを求めた。CTGの続きを見ていただく。
3)引き続くCTG(図3)
26歳初産婦、販売員。トイレに行って帰ってきてから20分が経過した時点のCTGである。
心拍数の一過性変動が引き続き繰り返している。どう判読し、対応するか?
4)判読と対応(図4)
軽度遅発一過性徐脈が繰り返し出現している。心拍数基線は155bpmの正常脈で変わらないが、基線細変動は3-4bpmと減少気味だ。厳密には基線の2分間以上の持続がなく、心拍数基線と基線細変動を判読する場所がないが、前ページから通してみるとこのCTGの後半では明らかに細変動が少ない。
先ほどまでの低酸素血症に引き続き、胎児酸血症が発生しだした可能性がある。このまま経過すれば、基線細変動が消失するか、遅発一過性徐脈が遷延一過性徐脈に移行し、胎児の自律神経系は破綻するかもしれない。もうしばらく、どうなるかモニターを見ていたい気になるが、それは不謹慎であろう。
現場では、この時点(40分間の観察)で胎児機能不全と診断し、緊急帝王切開を行っている。13分後に健児を得ている。臍帯動脈血はpH7.17で、児のアプガースコア1分8点、5分9点であった。(ちょっと危ないガスだが、間に合ったのである)
胎児の声は聞こえたであろうか。