16. ステップアップ4(有害な一過性徐脈の出現2)
CTGマイスター(ベーシックコース)
ステップアップ4(有害な一過性徐脈の出現2)
毎週、NRFSや判読に苦慮したCTGを医局員、助産師、新生児科医でレビューしている。いわゆるCTGカンファレンスだ。
今回は対応に賛否両論あった典型的な所見を呈したCTGを供覧する。
1. 低酸素状態、有害な一過性徐脈の出現2
1) 症例2(図1)
35歳、初産婦の美容師。妊娠38週、陣痛発来にて入院。分娩は順調に進行し、全開大を迎えた際のCTGである。
突然、心拍数基線が乱れ、様々な波形が出現した。どう判読するか?
2) 判読(図2)
心拍数基線は145bpmの正常脈、基線細変動は10-15bpmで中等度だ。はじめに①の一過性徐脈が出現する。心拍数の上下動が目立つが、子宮収縮に遅れて心拍数の最下点があり、軽度の遅発一過性徐脈。引き続き急速に心拍数が低下する遷延一過性徐脈(②)、緩やかに低下し緩やかに回復する遷延一過性徐脈(③)が出現する。その後記録が不明瞭だが、繰返し遅発一過性徐脈が出現している(④)。
突然、子宮収縮に伴い低酸素状態が発生した。分娩は遷延することなく経過し、過強陣痛ではない。
3) 引き続くCTG(図3)
一過性徐脈が繰返し、20分以上持続している。心拍数の低下が2分前後で、遷延一過性徐脈に近いが、高度遅発一過性徐脈である。心拍数低下が著明な遅発一過性徐脈では、しばしばU型の波形となる。変動一過性徐脈との誤読を避けるため、前後の波形や、子宮収縮の関係から判読していただきたい。
さて、問題は対応だ。すでに全開大で破水しているが、stationは+1で、吸引分娩にはまだ高い(著者の施設ではほとんど鉗子分娩を行わない)。帝王切開を選択するかどうかカンファレンスでも意見が分かれた。分娩の進行が遅滞すれば児は深刻な状況に陥る。
担当医は頻回に内診し、回旋異常はなく、少しずつだが児頭の下降が進んでいることを確認した。結果、現場は体位変換や補液といった保存的処置を行い、静観することになり、全開大から40分、一過性徐脈出現から32分が経過した。
4) 出産までのCTG(図4)
出産までのCTGを示す。心拍数の低下時間は徐々に延長し、遷延一過性徐脈に移行し、徐脈が発生している。繰返す遅発一過性徐脈が遷延一過性徐脈に移行すれば、比較的短時間で胎児の自律神経系は破綻する。
徐脈発生と同時に排臨になり、徐脈後9分(一過性徐脈出現後41分)で自然分娩に至った。児は2335gで、LFD。アプガースコアーは1分8点、5分9点と良好であったが、臍帯動脈血のpH は7.077と低値であった。
2.カンファレンス(図5)
カンファレンスの目的には、症例をチームで共有することや対応を標準化することなどがあるが、しばしば、母と子にとって至適対応とは何であったかが議論される。この症例では意見が分かれた。個人的には結果オーライな分娩で、よく辛抱したとも言えるが、少し消極的な管理だったようにも思っている。
繰返す遅発一過性徐脈の波が遷延してくると、比較的短時間で波頭は崩れ、胎児の自律神経系は破綻するということを記憶に残していただければと思う。