16.新生児聴覚スクリーニング検査(その2):陽性児には尿中CMV抗原検査を考慮する

新生児聴覚スクリーニング検査(AABR法)の必要性
新生児聴覚検査の重要性は周知され、産婦人科診療ガイドライン産科編2020においても「インフォームドコンセントを取得したうえで聴覚スクリーニング検査を実施し,母子手帳に結果を記載する(.B)」と2017年版と同様に推奨される予定である。このことは、難聴の早期の診断, 早期介入がコミュニケーション能力・QOL向上につながることからの推奨で、新生児に対し、産科入院中の日齢3~5日に自動聴性脳幹反応検査(AABR)を用いた聴覚スクリーニングを行うことが望ましい。
AABRの使用が望ましい理由は、聴神経難聴スペクトラム(Auditory neuropathy spectrum disorders (ANSD)においては、内耳機能は正常又は正常に近いため耳音響放射検査(OAE)ではパス(反応あり)となる可能性があるためである。ANSDにおいてはAABRを用いると、聴神経機能に異常があるためリファー(要再検)となる。このため、初回検査及び確認検査はAABRで実施することが望ましく、そのことは、厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知(平成28年3月29日)にも記載されている。

先天性難聴と先天性CMV感染症との関係
先天性CMV感染症は出生時250~300児に1児程度(0.3~0.4%)の頻度と報告されている。先天感染の90-95%は不顕性感染であり、出生時には異常がみられない。一方、5~10%が顕性感染であり、その症状には、皮膚の点状出血、聴覚障害、肝脾腫、横断、小頭症、脳内石灰化、脈絡網膜炎などがある。聴覚障害は顕性感染児の25~30%に認めるとされる。一方、先天性難聴の側からみた場合のCMV感染の頻度は15%程度と報告されている。
このことから、新生児聴覚機器スクリーニング検査で先天性難聴の疑いを示す「refer」が出た場合には、産科入院中に新生児尿中CMV抗原検査(定性検査)を行うことが推奨される。生後3週間以内の新生児を対象に、本検査は保険収載されている。尿採取を家庭で行うことは煩雑であり、検査漏れが出やすいことから、産科での入院中に検査を行うのが良いと考える。検査結果が陽性の場合には小児科に結果を通知して管理を依頼する必要がある。

新生児聴覚スクリーニング検査で「Refer」と判定された時の対応
 検査で先天性難聴の疑いを示す「refer」が出た場合には、産科入院中に新生児尿中CMV抗原検査(定性検査)を行うことが推奨される。CMV抗原陽性の場合には小児科に紹介し、その治療開始が考慮される。使用薬剤はガンシクロビル(GCV、デノシン®)やバルガンシクロビル(VGCV、バリキサ®)が考慮される。同時に、耳鼻咽喉科の精密聴力検査機関の在籍する施設に相談して、難聴に対する精査を依頼する必要がある。
 各産科施設においては、難聴検査で「refer」が出た場合の相談施設をあらかじめ確認し、連携しておくことが必要である。また、CMV抗原で陽性と出た場合の紹介する小児科施設についても同様である。これらに対応できる施設は各地域で限られた施設であると思われることから、地域の医療機関の連携体制を構築することも重要である。
なお、難聴の精密検査可能な医療機関のリストは日本耳鼻咽喉科学会のホームページに情報が掲載されている(http://www.jibika.or.jp/citizens/nanchou.html)。