19. ステップアップ7(non-reassuring fetal status)
低酸素状態に対する胎児の対応(CTG所見)をまとめてみる。胎児の状態はCTG所見で評価され、健全か胎児機能不全か判定される。
1.胎児の状態(図1)
1) 健常な胎児の状態をreassuring fetal status(RFS)と呼ぶ。
2) 安心できない胎児の状態をnon-reassuring fetal status(NRFS)と呼ぶ。
一度、話を整理しておく。子宮内に低酸素状態が発生し、図上段から下段にいたるCTG所見の流れはもう理解できているはずだ。米国では上段の状態をRFS、下段の状態をNRFSと呼んでいる。安心できる胎児の状態と安心できない胎児の状態というわけである。
NRFSの概念導入は画期的で、CTGの判読にパラダイムシフトをもたらした。長い間、多くの産婦人科医師はCTGにより、本当に具合の悪い胎児(いわゆる胎児仮死)を見つけようとしていた。しかし、そこに限界があったのだ。
2.胎児仮死から胎児機能不全へ (図2)
図中の円は胎児全ての世界である。
CTGで、胎児が健常(RFS)であること明確に区分できる。それを利用し、それ以外がNRFSと規定される。したがって、NRFSには白に近いグレーから黒に近いグレーと真っ黒までが含まれる。
かつて、CTGで黒とグレーを区別しようとしていたのだが、解決が見出せなかった。CTGでは、黒とグレーは明確に区別できないということが、この概念にたどり着く結論なのである。真っ黒を証明できないための苦肉の策かもしれない。しかし、一方で区分は明確になった。
本邦でも、2008年に日本産科婦人科学会周産期委員会が、この概念を導入し、胎児仮死や胎児ジストレスから「胎児機能不全」と改訂された。NRFS(胎児機能不全)は白以外全部を指す。したがって、白に近いグレーも含まれ、必ずしも状態の悪い胎児だけを指す呼び方ではない。
3.胎児心拍数波形のレベル分類(図3)
「胎児心拍数波形をCTGの諸要素の組み合わせから、胎児の低酸素症、酸血症などへのリスクの程度を推量するため、5つのレベルに分類する。レベル3以上が胎児機能不全と診断(判断)される。」
これが現在の胎児機能不全の診断基準である。このレベル分類は欧米で始まり、多くの国は3段階分類を採用している。しかし、3段階では真ん中のレベルの幅が広すぎ、問題となることもあり、本邦では5段階が採用された。
レベルを決定する方法は次回に解説する。ここで、記憶していただきたいのは、胎児機能不全であっても、軽度、中等度、高度に分類され、レンジが広いということである。このレンジはその対応にさまざまなバリアンスをもたらし、施設内コンセンサスを共有する必要が生じるのである。