2.不妊症の定義・分類・治療法

日本産科婦人科学会編集の産科婦人科用語集では不妊症を、「生殖年令の男女が妊娠を希望し、ある期間避妊事すること無く性交渉をおこなっているのにもかかわらず、妊娠の成立を見ない場合を不妊といい、妊娠を希望し医学的治療を必要とする場合」と定義づけている1)。その期間に関してASRMでは1年、FIGOでは2年としている2)。さらに、明らかな不妊原因が存在する場合は不妊の期間にかかわらず不妊症としても差し支えない3)。不妊の頻度は、およそ13〜17%であるが4)、女性年齢の進行とともに不妊の割合も増加する。年令別の不妊の頻度は20代前半では5%以下、20代後半でおよそ9%、30代前半では15%、30代後半で30%、40歳以上では60%以上となる5)。
不妊の分類は女性に原因がある場合を女性不妊、男性が原因の場合を男性不妊と分類している。女性不妊は、一度も妊娠しない場合を原発性不妊、妊娠経験があるのにもかかわらずその後妊娠しない場合を続発性不妊と分類している。また、器質的に不妊の原因がある場合を器質的不妊、原因不明の場合を機能性不妊とする分類もある1)。
不妊の原因別頻度は男性不妊が32.7%、卵管因子20.5%、卵巣因子が20.5%, 子宮因子が17.6%、免疫因子が5.2%、残りは原因不明となっている6)。
不妊治療を求めてクリニックに受診するカップルの10〜30%が原因不明の機能性不妊であり7)、受診患者の中で最も多い。不妊症のスクリーニング検査をすべて行ったにもかかわらず不妊の原因に説明がつかない症例を原因不明不妊と言い、一般不妊治療を行い、妊娠しない場合は体外受精を行っている7)。一般不妊治療の選択では、自然周期かclomiphene周期かゴナドトロピン周期のどの方法が原因不明不妊に最もよい結果をもたらすかの数多くの議論がなされている。2016年のSystematic review8)では、原因不明不妊に関する776の論文を調査し、以下の結論を導き出した。待機的治療(自然周期)は、クロミフェンによるタイミング治療または人工授精に匹敵する効果(自然周期 6%VS クロミフェン7%)9)があり、また、レトロゾールよりもクロミフェンを使用して複数の卵胞を刺激し発育させた方が、妊娠率が高く(CC 23.3%vsレトロ18.7%)10)、さらに多胎のリスクは高くなるがゴナドトロピンによる卵胞刺激の方がより妊娠率は高くなる(32.2%)11)と結論づけている。原因不明不妊では、生産率を比較すると体外受精とゴナドトロピンによる人工授精では治療効果に有意差はない(生産率 IVF 39% vs HMG-IUI 36%)12)としていが、ただし臨床的妊娠までの期間の短縮につながるかもしれないと結論づけた8)。
不妊症には様々な原因があるが、より良い結果のためには適切な診断と適切な治療を行うことが望ましい。一般に体外受精というと必ず妊娠するかのように思って来院されるため、正確な知識を伝える必要性がある。

参考文献

1)日本産婦人科婦人科学会(編集)産婦人科用語集 2013;300
2)日本産科婦人科医会(編集)不妊とは。(研修ノートNo.68)東京、2001:2-8
3)生殖医療の必修知識 2013年
4)Abma JC, Chandra A, Mosher WD, Peterson LS, Piccinino LJ. Fertility, family planning, and women’s health: new data from the 1995 National Survey of Family Growth. Vital Health Stat 23. 1997:1-114.
5) Menken J, Trussell J, Larsen U. Age and infertility. Science. 1986; 233: 1389-1394.
6) 日本受精着床学会 倫理員会:非配偶者間の生殖補助医療に関する不妊患者の意識調査. 日本授精着床学会誌. 2004; 21: 6-14
7) Athaullah N1, Proctor M, Johnson NP. Oral versus injectable ovulation induction agents for unexplained subfertility. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(3):CD003052.
8) Gunn DD, Bates GW. Evidence-based approach to unexplained infertility: a systematic review. Fertil Steril. 2016; 105:1566-1574.
9) Deaton JL, Gibson M, Blackmer KM, Nakajima ST, Badger GJ, Brumsted JR. A randomized, controlled trial of clomiphene citrate and intrauterine insemination in couples with unexplained infertility or surgically corrected endometriosis. Fertil Steril. 1990; 54:1083-1088.
10) Diamond MP, Legro RS, Coutifaris C, Alvero R, Robinson RD, Casson P, Christman GM, Assessment of multiple intrauterine gestations from ovarian stimulation (AMIGOS) trial: baseline characteristics.
Fertil Steril. 2015;103:962-973.
11) Diamond MP1, Legro RS, Coutifaris C, Alvero R, Robinson RD, Casson P, Christman GM, Letrozole, Gonadotropin, or Clomiphene for Unexplained Infertility. N Engl J Med. 2015; 373:1230-1240.
12) Goverde AJ, McDonnell J, Vermeiden JP, Schats R, Rutten FF, Schoemaker J. Intrauterine insemination or in-vitro fertilisation in idiopathic subfertility and male subfertility: a randomised trial and cost-effectiveness analysis. Lancet. 2000; 355:13-8.