2. 研究倫理とガイドライン

研究倫理

人を対象とした研究はすべからく、本人の同意と研究機関における施設内倫理委員会(IRB)の承認を得なければならない。臨床論文の場合、特に複数の治療法による予後を比較検討するなどの介入研究は観察研究や後ろ向きのコホート研究に比較してより厳しい審査と承認が要求される。最近では症例報告でも倫理委員会承認を求める雑誌が増えてきた。

詳細は文科省と厚労省による「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1443_01.pdf に記載されるが、数年ごとに改訂されるので最新版を確認頂きたい。研究倫理教育については、大学および付属機関に所属する研究者は無償で、それ以外の機関や個人は有償でCITI Japan https://edu.citiprogram.jp/citijapan.asp?language=japanese よりe-learningとして自宅や勤務の空き時間に受講できる。非常勤の研究者も大学所属として扱われるので、兼任講師や社会人大学院、客員研究員などの制度があるばあいは大学との連携を保っておくと便利である。

コンピューター画面で日本語の講義を受講した後に達成度試験があり、合格すると次段階に進む形式で、到達段階ごとに受講証明書が発行される。

もう一点気をつけねばならないのは、論文執筆時には利益相反を必ず記載することである。研究遂行や教室運営、学会運営のために製薬会社や試薬会社から寄付を受けたり、研究者自身が産学連携のベンチャー企業に参画することは最近では稀ではない。画期的な新規医薬品,医療材料の開発という点で我が国の国益にもかなう。従ってそれ自体が責められることはないが、利益相反を秘匿して特定の薬品や治療法に有利(または不利)な結果を報告することは科学上の不正行為の一つと見なされる。詳細は「日本医学会 医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」http://jams.med.or.jp/guideline/coi-management_qa01.htmlをご覧頂きたい。

 

研究報告のガイドライン

診療同様、研究にもガイドラインがあって、それに沿って進めてゆけば大きく外れることはないし、批判にも耐えやすい。正統的な研究と発表の方法を学ぶのが医学部6年、そして大学院や研修指導施設であり、本会の会員の方々はこれを受けておられるはずである。しかし、卒業大学や研修施設によって研修内容に差が生じること避けがたい。また、時代とともにガイドラインは変化しており、常に最新の内容をキャッチアップする必要がある。1990年代以降、従来国ごと、施設ごとに異なっていた研究の基準を統一化しようという動きが始まり、現在ではほぼ一般化したものができている。 すなわち、臨床医学研究において、もっとも一般的なランダム化比較試験を報告するには、CONSORT, メタアナリシスにはPRISMA,一般的な観察研究にはSTROBE診断研究にはSTRADという国際的なガイドラインが策定された。紙面の関係で詳細は省略するが、原文あるいは和文のガイドラインはインターネットでダウンロード可能なので投稿前に確認しておくと良い。http://www.consort-statement.org/Media/Default/Downloads/Translations/Japanese_jp/Japanese%20CONSORT%20Statement.pdf など

雑誌によってはこれらの基準によるチェックリストの提出を求めるものもあるが、直接求められずとも多くの国際雑誌で準拠していることを前提にしているので、投稿後にこれらの基準を満たしていないというeditorやrefereeのコメントを逃れることができる。全てを満たせない場合もあるがその時には理由をはっきり明記することで反論ができる。(非常に稀な症例で同一期間にコントロールが得られなかったなど)。勿論、その反論を受け入れるかどうかはレフェリー次第である。