24. 胎児の異常所見か悩む超音波所見

Normal variantとabnormal variant

 

通常の妊婦健診で施行する一般超音波検査や、精密超音波検査で偶然なにかいつもと違う超音波所見に出会うことがあります。明らかな形態異常があり、そして明らかになんらかの病態があるものは、形態異常そのものの診断名をつけることができます。それら本当の異常をabnormal variantと呼びます。
それに対して、normal variantと呼ばれるものがあります。日本語に訳すと正常変異、正常範囲内変異など呼称されます。確かに、正常とは違って描出されるが、異常であると診断できるような異常ではないというようなものです。とくに超音波所見に関するnormal variantは、ultrasound variantなどとも言われます。
通常normal variantは、妊婦に説明する必要はありません。超音波では分からない様な小さなnormal variantなどはいくらでもあるからです。ひとりひとりの顔つきが違うように、臓器なども多少形が違ったりすることはあります。個性、多様性とも言えます。
今回は、妊娠中期以降にみられるNormal variantを、いくつかご紹介します。

心臓の高輝度エコー像 (Echogenic cardiac foci)
 妊娠中期に、心臓のなかに光る点状のエコー像をしばしば見かけます。腱索などの異常を疑わせますが、これはcardiac focusなどと言われるnormal variantです。通常は異常ありません。心臓エコーで正常構造であれば問題ないということができます。

脈絡叢嚢胞 (CPC; choroid plexus cyst)
妊娠20週ごろの中期の胎児スクリーニングでみつかることが多い。脳室内にある高エコー像を呈する脈絡叢に低エコーの嚢胞(cyst)ができる。両側に見られることもあることや、大きい場合もあるが、ほとんどは週数とともに消失します。

後頚部ひだ (Nuchal fold)
後頭部の皮下組織の厚さ(Nuchal fold)のことです。これが厚い場合variantとして扱われます。Nuchal translucency (NT) は、妊娠11-13週で精確に測定した場合、ダウン症などの染色体異常のリスク評価に利用できることがよく知られていますが、NTが普及する以前は、妊娠20週ごろのこのNuchal foldを用いて染色体異常のリスク評価を行っていました。6mmを超えると比較的厚いと判断され、いろいろリスクがあるなどと言われましたが、今はnormal variantとして考えられています。NTも肥厚していたとしても、正常である場合、染色体異常である場合がある所見です。見る人(見てもらう人)がどう考えるかで、その肥厚をも、normalともabnormal variantとも考えることができるかもしれません。

青矢印がnuchal fold

側脳室拡大
妊娠中期以降、側脳室が大きい場合で頭囲の拡大を伴わない場合を、側脳室拡大と呼びます。しかし、余程拡大していない限りnormal variantである可能性も少なくありません。側脳室三角部の横径が15mm以上ある場合は異常と考え、10mm未満は正常と考えるのが一般的で、その間は何とも言えないと言われています(normal variant か abnormal variant)。診断や考え方が難しい超音波所見のひとつです。

胎児の軽度腎盂拡大
胎児の腎盂が拡張している状態である。下部尿路系の閉塞などがあって発生する明らかな水腎症とは違い、軽度である状態です。胎児期には、尿管膀胱移行部が未熟であることから、この様な所見がみられることがあり、normal variantとして考えます。

単一臍帯動脈(SUA; Single umbilical artery)
単一臍帯動脈は100人に1人ぐらいの頻度でみられます。単一臍帯動脈は、染色体異常や他の形態異常を合併しやすいといわれますが、精密超音波検査でほかに異常がなければ、そのリスクはほとんど問題ないと考えられます。血管が1本ないという形態異常であるので、形態異常の一つとして分類するという考え方もありますが、頻度は少なくなく、多くは問題がないことからnormal variantと考えることもできます。他の形態異常がないことを確認した上でのnormal variantと考えることが重要です。胎児発育不全や分娩時の胎児機能不全とも少し関連がありますので、注意して健診でフォローアップする必要があります。